永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【新刊】はじめての物理数学(SBクリエイティブ)

 

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新刊『はじめての物理数学 -自然界を司る法則を数式で導く-』(SBクリエイティブ)が出ました。下記は出版社が付けてくれた紹介文です。

微分積分の本質はニュートン力学にあり!

『大人のための数学勉強法』『ふたたびの微分積分』など多くの著書で理系・文系を超えたファンを持ち、塾生(社会人女性)が「どうして私のわからなかったところが先生にはわかっちゃうんですか?」と思わず尋ねるほど、数学が苦手な人のことを熟知している永野裕之先生。その永野先生がつねづね思っていたのが「高校では数学と物理をいっしょに学ぶのが本質的だし、絶対お得なのに」ということ。予備校生時代に初めて出会った、微分積分を使った物理の授業での感動を、もっとたくさんの人に知ってほしい。そうした思いから、微分積分を知らない人が一から学ぶための理想の内容を、このテキストにまとめました!

■本書の特徴
・単なる計算だけではない、微分積分の本質を、ニュートン力学の具体的な問題から知ることができる。
・高校生から学べるよう、必要な知識はその都度戻って説明している。
・計算過程はどの本よりも詳しく展開、迷子にならないための細かなコメント付き。
・わからなくなったり、勘違いしそうなところには詳注で著者ならではの解説付き。

SBクリエイティブ:はじめての物理数学

online.sbcr.jp

《カバー前そで》

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目次

はじめに

第1章 微分

1-1 「限りなく近づく値」それが微分・積分のはじまり(微分係数)
物理への展開……瞬間速度
1-2 "原因"、そして、"原因"の"原因"まで捉える(導関数)
物理への展開……位置・速度・加速度
1-3 ある極限のための新しい角度の表し方(三角関数の極限)
物理への展開……等速円運動の加速度
1-4 「小さきもの」×「小さきもの」は無視できる(積の微分)
物理への展開……運動方程式と角運動量
1-5 「見かけの力」の正体(三角関数の微分と合成関数の微分)
物理への展開……コリオリ力と遠心力

第2章 積分

2-1 科学史上の大発見(微分積分学の基本定理)
物理への展開……等加速度直線運動
2-2 記号の王様ライプニッツの功績(置換積分法)
物理への展開……エネルギー保存の法則と運動量保存の法則

第3章 微分方程式

3-1 現実をモデル化し未来を予測する術(微分方程式とモデル化)
物理への展開……単振動
3-2 「解ける」微分方程式の基本形(1階微分方程式~変数分離形~)
物理への展開……空気抵抗を受けて落下する物体の運動
3-3 オイラーの公式で「解の公式」を手に入れる (2階線形同次微分方程式)
物理への展開……減衰振動

 

 

なお、紙の本と同日に発売されたKindle版では、目次や「はじめに」を含め冒頭の40ページほどを無料でご覧頂くことができます。ご興味のある方は是非ご利用ください。

 

本書でお伝えしたいこと

今も昔も、文科省の定める指導要領では、高校物理は微分・積分を使わずに教えることになっているので、教科書はもちろん高校生向けの参考書も多くは微分・積分を避けて解説されています。

一方、私は高校2年生のときに、運良く(?)微分・積分を使って物理を学ぶ機会がありました。そのときの感動は今でもはっきりと覚えています。教科書や参考書ではバラバラと神出鬼没に登場する公式の数々がすべて数学的に繋がっていることがわかったからです。運動の基本式、力学的エネルギー保存則、運動量保存則、単振動の各種公式、角運動量、力のモーメント…等々を枝葉に持つ大樹の存在に気づくその経験は本当に刺激的でした。こんなにも統一的に、そして美しく体系立てられているのだから「この世は神が創り給うたに違いない」とさえ(真剣に)思ったものです。

白い紙の上に自分の手で自然法則(公式)が導けるようになる感動は何ものにも代えられません。それは、今自分は世の真理に触れているのだという興奮であり、人類が脈々と受け継いできた叡智を受け取ったという誇りにさえ繋がります。

物理を微分・積分を通して理解できるようになると、少なくとも大学入試の問題はどれも難しいとは感じなくなりました。おそらく多くの高校生が物理に躓くのは「どの公式を使ったらいいかわからない」からだと思いますが、それらが数学的に繋がっていることがわかれば「どれを使っても解ける!」という自信を持つことができます。もし不都合があっても微分・積分を使って使い勝手のいい形に変形することもできますから気は楽です♪ 

また、微分・積分を使って物理を考えるようになると、物理を通じて数学がわかるようになるという経験を何度もしました。計算技法としての側面しか理解していなかった微分・積分の意味を物理現象を通じて理解できるようになり、微分・積分以前に学ぶ多くの単元が微分・積分に収斂していくこともわかるようになりました。私が、地球惑星物理学科という物理系の学科を卒業しておきながら、今はこうして数学塾の塾長を務めることができているのもこうした物理を通しての数学の理解に支えられているからに他なりません。

この本は、現役の高校生の皆さんにも是非私と同じ経験をして欲しいと思って書きました。前提となる知識は数IAの基礎的なものだけです。それ以外の、例えば三角関数、指数関数、対数関数、数列、ベクトル等の必要な数学はすべて詳しく解説してあります。高校2年生以上であれば、どなたでも必ず読み通して頂けるはずです。本書を通じて、微分・積分と物理を同時に学んでいくことの相乗効果を是非感じてもらたいと思います。

また大学に入ってから、物理が急にわからなくなってしまった大学生の皆さんにもこの本はお薦めです。微分・積分をまったく使わない高校の物理と、微分・積分を遠慮なく使いまくる大学の物理の間に横たわる溝を埋められると思います。

書店で手にとって頂ければわかりますが、この本は決して薄くありません(400頁あります。ブックエンドがなくても余裕で自立します♪)。物理の話題はニュートン力学(高校で学ぶ力学)に絞ってあるのにも関わらず、ここまでのボリュームになったのは、ニュートン力学に必要な数学の一つ一つを、言葉の定義→概念の紹介→定理・公式の導出というスタイルにこだわり、それぞれをできるだけ詳述したからです。もちろんそれらを物理に応用する方法についても(類書の中ではおそらく最も)丁寧に書きました。

私の塾で「大人の数学塾」を受講された社会人の生徒さんたちもこの本と同じ道筋で数学や物理を学び、例外なく学生時代の鬱憤を晴らされています。それはこの本のスタイルが物事を論理的に理解するための王道だからです。回り道のように見えても、このような学び方が実は最短経路であることを私の塾の多くの生徒さんが証明してくれています。そういう意味では本書は、論理的思考力を鍛えたい、あるいは数学や物理を最短・最適の方法で学び直したい大人の方にも是非読んで頂きたいです。

 

はじめての物理数学 自然界を司る法則を数式で導く

はじめての物理数学 自然界を司る法則を数式で導く

 

謝辞

上記の通り、微分・積分を使って物理を考えることの恩恵(相乗効果)は常々感じていたので、今回「物理数学の本を」とご依頼を頂いたときは、大変嬉しかったです。貴重な機会を与えて下さったSBクリエイティブの則松直樹さんにはこの場を借りて深く御礼申し上げます。則松さんは編集者さんには珍しく(?)数学科のご出身で、理系ならでは貴重なアドヴァイスをたくさん頂戴しました。

また、装幀画と章初めの扉でいい意味で理数系の本らしくない素敵な切り絵を提供して下さった辻恵子さん、本文中で紙面に読みやすさとやわらかさを加えて下さったイラストのshimanoさん、カバーと本文で素晴らしいデザインをして下さった米谷テツヤさん他、本書の成立にご尽力を頂いた皆様にも心から感謝申し上げます。

なお、切り絵作家の辻恵子さんは、NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のオープニング映像や宇多田ヒカルさんの『花束を君に』のPVも手掛けた方です。「数式には物語がある」という本書のメッセージを見事に汲んで戴きました。

 

www.tsujikeiko.com

tsujikeiko.blogspot.jp

 

お詫びと正誤情報

本を出版する際、編集者の方と校閲者の方と私で原稿を何度もチェックします。その過程でミスを徹底的に洗い出すのですが、残念ながら初版にはいくつかの誤植が見つかっています(もちろん最終的な責任はすべて私にあります)。ここに謹んでお詫び申し上げると共に、正誤情報が出版社のWebページに掲載されておりますのでご案内します。

SBクリエイティブ:【正誤情報】『はじめての物理数学』