永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【新刊】ふたたびの高校数学(すばる舎)

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あのときわからなかった公式の意味が、いまこそ理解できる!
高校数学から大学数学の入口まで、学びやすく、理解しやすい独自の構成で解説。定理や公式に隠された「本当の意味」がわかり、真の理解が進む。のみならず、数学という学問の「全体像」も見えてくる、大人の再入門&再発見。

本書のテーマは、

「高校数学とは何だったのか?」

という問いに答えることです。

大人のための学び直し本や、現役の高校生のための参考書にも良書・類書が少なくない中で本書の特徴をあげるとすれば、つぎの3点にまとめられると思います。

  • 分野別の再構成(数学マップ)
  • 行間を徹底的に埋めた解説
  • 歴史や社会との繋がりを紹介したコラム

ひとつずつ、書きますね。

分野別の再構成(数学マップ)

高校生が数学に迷う一つの理由は、各単元の内容が互いにどのように関係するかが見えづらいことにあるのではないでしょうか? カリキュラムに沿って、次々に新しい単元を学ぶ必要があるので、今学んでいる単元がなんの分野なのか、そして過去に学んだ単元とどのように関係するのかを理解をする余裕が高校生にはなかなかありません。

そこで、本書では高校数学に登場する各単元を以下のように7つの分野別に整理して再構成しました。こうすることでそれぞれの連携がわかりやすくなると思います。

 

  1. 幾何学:説得術として発展した数学
  2. 代数学:方程式を解くための数学
  3. 解析幾何学:数と図形の統一
  4. 数論と数列:1,2,3…が一番難しい!?
  5. 解析学:関数と微積分
  6. 確率と統計:偶然を処理するための数学
  7. 大学への数学:線形代数と複素数平面

 

また、数学全体を俯瞰してもらえるように、巻頭には以下の「数学マップ」も用意しました。これは中学・高校・大学(1・2年程度)の数学の内容を、高校数学にクローズアップしてその繋がりをまとめたものです。 

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行間を徹底的に埋めた解説

普段教えていて多くの生徒さんが躓くところは特に気をつけて詳しく書きました。式変形は端折らずにすべて記載しましたし、公式等を利用する際にはその都度ガイドを入れてありますので、途中でなにをやっているかがわからなくなってしまう、ということはおそらくないと思います。また読者がモヤッとした疑問を持ちそうなところはできるだけ(注)を設けてフォローしています。

 

数学の勉強は

  1. 新しい概念を学ぶ
  2. 定理や公式の意味を理解する
  3. 問題を解く

という3つのステップを踏むのが常道です。

ただし高校では、定期試験や大学入試を意識するあまり、「3」に偏った勉強をしてしまうことが少なくありません。学生は本来の目的を見失ったまま、「解き方を覚えて問題を解く」ということに終始してしまいがちです。そうなると問題が解けない学生にとっては、数学は苦行のようになってしまいますし、問題が解ける学生にとっても、クリアできるかどうかが最大の関心事となるゲームの類と数学は大差がなくなってしまうでしょう。

一方、大学の数学では上記の「1」と「2」にこそ重きが置かれます。なぜなら、大学では数学を学問として捉えているからです。学問である以上、それを学ぶ意味や目的をつかむために、「何が新しい概念なのか」、「新しい概念を通じてどのようなことがわかるのか」といった事が最も重要なのは言うまでもありません。  

「高校数学とは何だったのか?」という問いに答えを出すことは、言い換えれば、高校数学を学問として捉え直すことです。だからこそ本書では、学ぶべき概念を紹介することと定理や公式を導くことに多くの紙面を割きました。ブロックをひとつずつ積み上げていくように本書を読み進めていただければ、「あのとき学んだあの数学はこういう意味だったのか!」と膝を打ってもらえるだろうと自負しています。

各節には問題も用意されていますが、これらは実際に解く必要はありません(もちろん、腕に自信のある方は是非挑戦してみてください!)。それぞれの問題に付けた解説・解答を通して、「解法のテクニック」がなくても、概念や定理・公式の本質的な理解があれば問題はちゃんと解けるということを分かっていただければ十分です。そういう意味では、「数学の勉強の仕方がわからない」、「いくら解法を暗記しても問題が解けない」と悩む現役の高校生の皆さんにとっても、お役に立てることがあるでしょう。

本書は2014年4月に上梓した『 ふたたびの微分・積分 』の「弟分」にあたります。前著では高校数学の頂点である「微分・積分」を、徹底的に行間を埋めて、できるかぎり丁寧に説明しました。そのコンセプトは本書も変わりません。ただし、微分・積分の内容は前著と重複するため「超概論」としてその概念のみを紹介するに留めてあります。微分・積分について定理や公式の詳しい導出・計算テクニックにご興味のある方は是非前著を御覧ください。

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ふたたびの高校数学

ふたたびの高校数学

 

歴史や社会との繋がりを紹介したコラム

本書には全部で19のコラムが収められています。タイトルだけ紹介しますね。

 

  1. 「数学」の語源について
  2. 幾何学を学ぶ本当の理由〜パスカルの説得術〜
  3. 古代の「方程式」〜代数学の本質は一般化〜
  4. 解の公式をめぐるドラマ〜3次方程式の解の公式の紹介〜
  5. デカルトの革命〜幾何学と代数学の融合〜
  6. オイラーが考案した絶対に正しい推論〜論理と領域〜
  7. 美しも気高い「数学の女王」
  8. 友愛数と完全数とメルセンヌ数
  9. 「数学的帰納法」というネーミングについて
  10. 函数と自動販売機
  11. 三角関数なんて役に立つの?〜フーリエ展開の恩恵〜
  12. 対数は感覚を司る?〜ウェーバー・フェヒナーの法則〜
  13. ネイピア数(自然対数の底)e
  14. 直感を裏切る確率
  15. 相関関係についての注意点
  16. ベクトルの使いみち〜その2つの顔〜
  17. ベクトルの「成分」と基底の取り換え
  18. 行列の使いみち〜マルコフ連鎖とシェア分析〜
  19. オイラーの公式を導く

 

コラムには、高校で学ぶ数学が歴史の中でどのようにして生まれ、社会の中でどのように役立っているかを、また高校数学と大学数学の繋がりについても書きました。教科書的な記述とは別の側面から高校数学を捉えることで、「立体的な理解」が進むことを期待しています。

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目次&立ち読み(Amazon)

 Amazonの立ち読み(なか見!検索)では「はじめに」や目次も含めて冒頭の40頁ほどと「さくいん」が公開されています。どうぞご覧ください。
ふたたびの高校数学

ふたたびの高校数学

 

謝辞

正直なことを申し上げると、私はこの本を書き始めたとき、まさかこれ程のボリュームになるとは想像していませんでした(全592頁!)。もっと簡単にざっと概観することで、「高校数学とは何だったのか」をお伝えできると思っていたのです。しかし、書き進めていくうちに、どうしてもお伝えしたいこと、説明を端折れないことが次から次へと湧いてきて、どんどんと分量が膨れ上がってしまいました。

ふつう書籍の執筆を行う際には、頁数の上限があって、原稿をカットせざるを得ないということが珍しくありません。でも、すばる舎の編集の稲葉健さんには「分量のことは気にせず、徹底的にやってください」という有り難い励ましのお言葉を頂戴し、本書には私の書きたいことをすべて書かせてもらうことができました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

 

余裕で自立します♪

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自著の中でもダントツの分厚さ

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出版社サイト

www.subarusya.jp

Amazon

ふたたびの高校数学

ふたたびの高校数学

 

 

 

【新刊】中学生からの頭がよくなる勉強法(PHP)

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新刊「中学生からの頭がよくなる勉強法(PHP研究所)」が出ます。

 

本書は、私としては初めて中学生のお子さん本人に向けて書いた本です。日頃、塾で接している生徒さんのことを思い浮かべながら、一人ひとりに語りかける気持ちで書きました。

 

お伝えする内容は前著『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』をベースにしていますが、中学生のお子さんでも理解しやすいように表現やたとえやエピソードを工夫したつもりです。また各節の最後には、勉強法について生徒さんから受けることが多い質問をQ&Aの形でまとめました。紙面も、編集の田畑博文さんやイラストレーター・デザイナーの方のお力添えで、お子さんの目が先に進みやすいものになっていると思います。

 

タイトルにある「頭がよくなる勉強法」とは「自分の頭で考えられるようになる方法」とまったく同義です。本書にはそのための心構え(第2章)技術(第3章)が書かれています。それらはもちろん学力に直結します。 また、多くのお子さんや親御さんの関心が高い「やる気を引き出す方法」(第1章)や、数学を中心とした科目別の勉強法(第4章)についても多くの紙面を割きました。

 

一方で、本書には受験テクニック的なものは一切載っていません。それは、そもそも私がそういう裏技的なテクニックを持ち合わせていないということもありますが、知っている者だけが得をするような表面的な「知識」はこれからの時代に不必要だと強く感じているからです。

 

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中学生には平成24年度から実施されております現行の指導要領においても、「自分の頭で考えられる力」には大きな重点が置かれています。従来の評価の中心であった知識や技能よりも、思考力、観察力、表現力の3つの力が特に重要視されるようになりました文部科学省ではこれらをまとめて「生きる力」と称しています)。

 

これを反映し、知識偏重気味のセンター試験が平成31年に廃止されることになったのは既報の通りです。大学入試制度がドラスティックに変化していく中で、ゆとり教育は言うにおよばず、詰め込み教育も成果をあげることはできなくなるでしょう。それは、情報化社会の現代においては顕著な価値観の多様化と変化のスピードと無関係ではありません。これからは、今まで以上に「自分の頭で考えられる力」が求められる時代になります。

 

手前味噌ながら、この本でお伝えする勉強法はそんな新時代を生き抜く力そのものを育てると自負しております。本書を通して、お子さん一人ひとりが自分の足で立てるようになるお手伝いができれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。

 

目次

はじめに

第1章:「やる気」を引き出すために知っておくべきこと

  1. 勉強をする理由
  2. あなた持っている「やる気の種」
  3. 4つの「やる気スイッチ」
  4. やる気になるための「わかる」とは
  5. 「わかる」の次にすべきこと
  6. トップアスリートに学ぶセルフ・コントロール
  7. 勉強で一番大事なこと=楽しむこと

第2章:学力を伸ばすために知っておくべきこと(心構え編)

  1. 学力が伸びるために必要な3つの要素
  2. 勉強=暗記 ではない
  3. 目標を達成する方法
  4. 教わり上手な子の3つの特徴
  5. 読書のススメ

第3章:学力を伸ばすために知っておくべきこと(技術編)

  1. 中学生からのノート術
  2. アクティブに学ぶ〜調べる〜
  3. 記憶の種類とポイント
  4. 永野式記憶法(1)〜ストーリー記憶法〜
  5. 永野式記憶法(2)〜メモリーツリー〜

第4章:教科別勉強法〜数学を中心に〜

  1. 数学の勉強法(1)〜中学1年生編〜
  2. 数学の勉強法(2)〜中学2年生編〜
  3. 数学の勉強法(3)〜中学3年生編〜
  4. 数学の勉強法(4)〜数学の成績が上がりづらい理由〜
  5. 英語の勉強法
  6. 理科の勉強法

おわりに

 

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中学生からの頭がよくなる勉強法

中学生からの頭がよくなる勉強法

 

 

【出版社サイト】

www.php.co.jp

【新刊】統計学のための数学教室

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9/11(金)に新刊が出ます。タイトルは『 統計学のための数学教室 』です。

統計を学びたくても、そこに登場する数学がわからない。そんな方のために書きました。

以下は、「はじめに」からの抜粋です。

「統計リテラシー」の世代間格差

今年(2015年)の春、「新課程」の教育を受けたいわゆる「脱ゆとり世代」の第1期生が高校を卒業しました。彼らは理系・文系の区別なく「データの分析」という数学Iに新設された必須単元の中で、ヒストグラム、箱ひげ図、分散、標準偏差、相関係数といった統計の基礎を身につけています。

一方、1974年生まれの私も含め、ほとんどの社会人にとって統計は(履修する人が少ない)選択単元だったはずです。統計を学校で学んだことのある人はごく一部ではないでしょうか?

今更、私が言うまでもなく、昨今のビジネスシーンでは統計が使える能力、すなわち「統計リテラシーが必須になっています。しかし2015年以降に高校を卒業する世代と、2015年以前に高校を卒業した世代の間には統計リテラシーの点において小さくはない「格差」があるのが現状です。

社会人が統計を理解できない理由

そんな社会情勢を映すように、永野数学塾(大人の数学塾)にいらっしゃる社会人からも

「統計を教えて欲しい」

というリクエストはとても多いです。私は最初

「これだけ世にたくさんの統計の本が出ているのに、わざわざ習いに来るということは、きっと踏み込んだ統計の話が聞きたいんだろう」

と想像していたのですが、実際に指導を始めてみるとほとんどの生徒さんは統計そのものより、そこに登場する数学に躓いていることが分かりました。統計本に出てくる中学~高校レベルの数学が分からないために本当に基礎的な統計のことが理解できずに止まってしまうのです。逆に言うと、数学に明るくなれば統計自体を学ぶことはたくさんの良書が助けてくれます(本書の巻末に参考文献をまとめました)。

しかし不思議なことに「統計に使う数学」そのものを解説している本はほとんどありません。だからこそ私は本書の筆を取りました。この本は学校で統計を習わなかった社会人が統計を自学自習するのに必要な数学を学んでもらう本です。

本書の内容

第1章【データを整理するための基礎知識】では
…基本用語を押さえて「脱ゆとり世代」に追いつこう
第2章【データを分析するための基礎知識】では
…√と乗法公式から標準偏差の意味を理解する
第3章【相関関係を調べるための数学】では
2次方程式を使って、相関係数「−1 ≦ r ≦ 1」の謎を解く
第4章【バラバラのデータを分析するための数学】では
…確率とΣがわかれば確率変数が腑に落ちる
第5章【連続するデータを分析するための数学】では
…極限と積分で、正規分布と検定の本質をつかむ

 

詳しい内容は、こちらダイヤモンド社サイト)にある通りですが、本書では中学~高校で学ぶ数学の中から統計に必要な数学を厳選してあります。割り算の意味や割合(第1章)といった小学校レベルの算数から始まり、平方根多項式の計算(第2章)関数とグラフ(第3章)場合の数、確率、Σ記号(第4章)極限、積分(第5章)へと至ります。かなり盛りだくさんです。そのひとつひとつをできるだけ丁寧に説明しました。数学部分はもちろん、統計部分の解説も含めてここまで詳しく書いてある本は、他にはないだろうと自負しています。

今回も『 大 人のための数学勉強法  』、『 大人のための中学数学勉強法 』でご一緒したきたみりゅうじさんのイラストには大いに助けていただきました。また、監修の専修大学心理統計学研究室の岡田健介先生からは、統計の部分の解説に関して目から鱗が落ちまくるレクチャーを存分に頂き、それらはすべて紙面に反映させています。

それから、各章ごとに下のような数学と統計を結ぶフローチャートを載せたことも本書の大きな特徴です。

 

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フローチャートによって、ある統計量を理解するためにはどのような数学が必要になるかを一目で分かってもらえると思います。

本書では「脱ゆとり世代」が必須単元として学ぶ統計の内容は第3章までにまとめ、第4章では離散型データ(バラバラのデータ)の確率分布、第5章では連続型データの確率密度関数等を理解できるようになることを目指します。つまり集めたデータから必要な情報を読み取るいわゆる記述統計を総括し、部分的なデータから全体を推し量る推測統計の入り口までをご案内するのが本書の目的です。

 

統計のための数学は社会人に必須の数学リテラシー

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私は本書を書きながらつくづく思いました。ここに登場する数学は(統計のために選択したものではありますが)社会人ならば誰もが身につけておくべき「数学リテラシー」そのものだと。本書に登場する数学を身につけてもらえれば、数学に明るい商談相手に臆することはなくなるでしょうし、数字が踊る資料やExcelの関数を理解したり、グラフを使ってより説得力のあるプレゼンをしたりすることもきっとできるようになります。もちろん、論理的な思考力も磨くことができるでしょう。

 

ご興味のある方は是非、お手に取ってみてください。

 

 【Amazon

統計学のための数学教室

統計学のための数学教室

 

 

【出版社(ダイヤモンド社)サイト】立ち読みもできます! 

www.diamond.co.jp

【新刊】初歩からわかる数学的ロジカルシンキング

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9月7日(月)にSCCさんから新刊が出ます。

タイトルは『 初歩からわかる数学的ロジカルシンキング 』です。

 

最近、どこかの知事さんが「高校教育で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」と発言して大きな問題になりました(その後、撤回されたようですが…)。

私は一数学教師として、この知事さんの発言には2つの論点から反論したいと思います。1つは、三角関数を大人になってから使う人は多くなくても、それを勉強しておかないと進めない道というのが確実にあるのだから―そして勉強とは将来の可能性を拡げるためにするものなのだから―まだ何者になるかが決まっていない高校生にとって「必要ない」とは決して言えないという点。それともう1つは、三角関数を通して学べる相似や周期性の応用範囲は驚くほど大きく、それは進路に関わらず身につけておくべきだという点です。*1

 

ただ、多くの方がこの知事さんの発言に怒りや驚きを禁じ得なかったのは、「女子に」というフレーズが付いていたから(女性蔑視に繋がるニュアンスを多分に含んでいるから)ではないのかな、と思う節も実はあります。もしこれが単に「高校生に三角関数は必要ない」という発言であれば、「うんうん。三角関数なんて僕も使ったことないよ。そもそも数学なんて苦労して勉強させられた割には全然役に立ってないもの」と密かに同調する大人は少なくなかったかもしれません。

 

本書は、そんな方にこそ読んでいただきたいと思います。

 「数学的」ロジカルシンキングについて

最近はどこの書店でも、ビジネス書の一角にロジカルシンキング関連の書籍が並ぶようになりました。今や「ロジカルシンキング」という言葉を聞いたことのない人はほとんどいないのではないでしょうか? 

「ロジカルシンキング」という言葉がこれほど広く知られるようになったのは、マッキンゼーをはじめ主にコンサルティング会社で磨かれたコミュニケーション力を高めるためのスキルが今世紀の初め頃から特に注目されるようになったからです。ここでいう「ロジカルシンキング」は、理解のしやすさと説得力を高めて、伝えたいことをできるだけ分かりやすく説明する方法のことを指します。

一方、ロジカルシンキング(logical thinking)を直訳すれば「論理的思考」となります。論理的思考というのは「A=BかつB=Cならば、A=C」に代表されるような、立場・主義・主張の如何を問わずどのような人間にとっても正しいことが明白な結論を導く考え方のことです。論理というブロックを積み上げることで真理を探求してきた哲学や数学の歴史とは論理的思考の歴史であると言っても過言ではありません。この意味における「ロジカルシンキング」は、ヒラメキや勘では太刀打ちできない問題を解決しようとするときに大きな力を発揮します。

  

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本書のタイトルは「ロジカルシンキング」の前に「数学的」と付いています。それは私が、上の2つの力を磨くのに数学ほど適した学問はない、と考えているからです!……なんて書くととても難しそうに思われるかもしれませんが、本書には難解な数学は全く登場しません。使うのは中学までの数学のごくごく基本的な部分だけです。数学の部分がわからない、ということはまずないと思います。

 

全体に、ドラえもんや婚活パーティーやワインの価格など身近な例を多数取り上げ、読者の皆さんがロジカルシンキングとそれに繋がる数学のイメージを膨らませやすいようにでき得る限り配慮したつもりです。

 

数学を苦手にしている人が(もちろん得意な人も)本書を通して数学から学ぶべきものをイメージしてもらえるようになれば、筆者としてこれ以上ない喜びです。

本書の内容

本書は
・第1章 コミュニケーションのための数学的ロジカルシンキング
・第2章 問題解決のための数学的ロジカルシンキング
・第3章 ツールとしての数学的ロジカルシンキング
の3章立てになっています。

第1章はロジカルシンキングにおける「コミュニケーション力」を磨いてもらうことが目的です。この章にはロジカルシンキングではお馴染みの「MECEな分類」、伝えたい内容に即した「グラフの使い方」、情報を増やすための「マトリックス」、論理的であるための最初の一歩である「定義の確認」、そして説得力を増すための「数字の使い方」などが書かれています。

第2章ではロジカルシンキングにおけるもう一つの側面「問題解決能力」を磨いていきます。この章には、因果関係の理解を助けてくれる「関数」、推論の基本である「演繹法と帰納法」、「ならば(⇒)」の正しい使い方を学ぶ「必要条件と十分条件」、そして正攻法では糸口が見つからない問題を攻略する2つの視点、すなわち逆の視点の「余事象」と否定の視点の「対偶と背理法」などが登場します。

 最後の第3章では、ロジカルシンキングのためのツールとして使える数学を紹介します。MicrosoftやGoogleの入社試験で有名になった「フェルミ推定」、交渉における最適解を教える「ゲーム理論」、画期的なモデル化の一例として「グラフ理論」、そして現代人には欠かせない素養である統計から、データのばらつきを調べる「標準偏差」と相関関係を捉え未知なる値を予想する「回帰分析」を取り上げました。この章では特に理論的背景よりも、ツールとしての使い方に焦点をあてています(統計についての2つの節はExcelを使った計算方法がメインです)。

初歩からわかる数学的ロジカルシンキング (SCC Books 385)

初歩からわかる数学的ロジカルシンキング (SCC Books 385)

 

  目次

 序 章 数学的ロジカルシンキングのススメ

    ロジカルシンキングとは
    なぜロジカルである必要があるのか?
    「数学的」とはどういうことか?
    本書の使い方

  第1章 コミュニケーションのための数学的ロジカルシンキング
    1.1 思考を整理し困難を分割する
      【MECEな分類とその効能】
    1.2 目的別にグラフを使い分ける
      【4種類のグラフとその使い方】
    1.3 掛け算で情報を増やす
      【マトリックス】
    1.4 誤解をふせぐ
      【定義の確認】
    1.5 プレゼン力をあげる
      【数字の上手な使い方】
    練習問題
    練習問題の解答・解説

  第2章 問題解決のための数学的ロジカルシンキング
    2.1 信用できる自動販売機を見極める
      【関数と因果関係】
    2.2 ドラえもんが生物として認められない理由
      【演繹法と帰納法】
    2.3 怪しげな壺を買わなくてもすむ方法
      【必要条件と十分条件】
    2.4 心理学テストに学ぶ「逆を考える視点」
      【余事象】
    2.5 名言とアリバイに学ぶ「否定の視点」
      【対偶と背理法】
    練習問題
    練習問題の解答・解説

  第3章 ツールとしての数学的ロジカルシンキング
    3.1 地球外文明の数を見積もる
      【フェルミ推定】
    3.2 義理チョコは必要か?
      【ゲーム理論】
    3.3 婚活パーティーをモデル化する
      【グラフ理論】
    3.4 リーマン・ショックは「極めて異例」と言えるか?
      【標準偏差】
    3.5 ワイン方程式
      【相関関係と回帰分析】
    練習問題
    練習問題の解答・解説

  おわりに
    ロジカルであるために一番大切なこと ~論理力は心で育つ~

  参考文献

 

出版社サイト

3章の一部が立ち読みできます!

【SCC Books】初歩からわかる数学的ロジカルシンキング

   

 

 

*1:参考サイト:

nlab.itmedia.co.jp

【新刊】『ビジネス×数学=最強』

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明日(6月9日)、すばる舎さんから新刊が出ます。

タイトルは『ビジネス×数学=最強~眠っていた論理力を呼び覚ます18の方法』です。


学生時代、数学に苦しんだ人は
「なんであんなに苦労して数学なんて勉強させられたんだ!?ヾ(*`Д´*)ノ"」
と怒りにも似た疑問をお持ちかもしれません。
本書はこの問いに対する私なりの"答え"でもあります。

 (以下は本書の「はじめに」から引用・抜粋しBlog用にリライトしたものです)

 

数学力とは

そもそも「数学力」とは何でしょうか?
 
多くの文系の方が数学と聞いて連想するのは、方程式、関数、図形、ベクトル、確率、数列、微分積分…などの単元名とそれに関連する数式やグラフのようです。あたなはどうですか? そして「数学力」とは数学の問題が解ける力のことだと思っていませんか? 
本書の目的は、これが誤解であることに気づいてもらうことと、文系のあなたがすでに持っている「数学力」を使えるようになってもらうことです。

数学力とは、単に関数や方程式やベクトルの問題が解ける力のことではなく、ものごとを論理的に考えられる力、すなわち論理力のことです。三角関数も2次方程式も等差数列もこの能力を磨くための道具に過ぎません。

 

では「論理力」とはいったい何でしょうか? 

 

一概には言えないかもしれませんが、私は
・人に自分の考えが伝えられる
・人の言っていることが分かる
という2つの力のことだと思っています。

 

人の上に立って自分の考えを皆に伝え、人々を引っ張っていくためには自分の考えを相手にきちんと伝えられる論理力が不可欠です。また、たとえ自分と考え方が違っても、人の意見が理解できるのも論理力のなせる業です。

 

「方程式を解いたり、図形の性質を証明したりしなくても論理力を磨くことはできるんじゃないの?」

 

という声もあるでしょう。確かにそうかもしれません。


でも、論理力を効率よく育てるためには、まずは誤解が入り込む余地のない言葉=数学を使って論理を積み上げる訓練をするのがもっとも近道なのです。だからこそ世界中の学校で文系、理系の区別なく数学は必須科目になっています。

 

数学力=論理力だとは書いてきましたが、論理的に考えることが理系の専売特許だなんて私はさらさら思っていません。むしろ、文系の方は自らが秘めた力に無意識なぶん理系よりものびしろがあるだろうと思いますし、さらには持ち前の国語力で数学を日常生活に活かしてもらえる可能性も非常に高いと思っています。

だからこそ私は本書の筆を取りました。

 

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 本書の使い方

いま、

「そんなこといったって…数式を見ると、頭痛がしてくるし…」

と思ったあなた、ご安心ください。本書には数式はほとんど登場しません(わずかに登場するにしても中学レベル以下です)。

その代わり、できるだけ読者の皆さんの身近にある日常を引き合いに出し、そのなかに隠れている数学的なものの考え方(=論理的な考え方)を紹介するように心がけました。そして何より、「数学的なもの」を敬遠しがちな方にも読みやすいように、イラストや図版を多用しながら「わかりやすさ」には最も配慮して書いたつもりです


また、各節(全部で18節あります)の最後には、会議の資料、プレゼン、マーケティング、商品開発…といったビジネスに直結する数学的スキル、さらには、接待、上司の説教、飲み会…といった仕事上のごく日常的なシーンを切り口に、「問題」を設けてあります。ぜひ、クイズに答えるような気持ちで考えてみてください。

 

なぜ「最強」なのか

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繰り返しますが、本書に紹介する「数学的」な考え方のほとんどは、すでにあたなの中にあるはずです。

しかし文系の方は、多く場合それに対して無意識です。

無意識のうちに数学的に考えることで得られたアイディアは本人にとっても周囲にとってもヒラメキに感じられ不確実なものですが、意識して数学的に考えられるようになれば「ヒラメキ」は必然のものになります。

 

ビジネスのあらゆるシーンで意識的に数学力を発揮できるようになれば、これほど心強いことはないでしょう。いま、この本を手にしてくれているあなたにも是非そうなってもらいたい―タイトルに「最強」ということばを使ったのはそんな私の願いと期待の現れです。


本書を読み終えたとき、

「あ、この考え方は『数学的』なのか。これからは意識して使ってみよう」

と思ってもらえれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。

 

本書の内容

第1章 数学的「情報整理」術……まとめ上手になろう

・MECEな分類
・掛け算的整理
・次元を増やす
・グラフの使い分け
・数値化
・相関係数

第2章 数学的「発想」術……ひらめき上手になろう
・一般化
帰納
・演繹
・必要条件と十分条件
・定義の確認

第3章 数学的「問題解決」法……生きかた上手になろう
・余事象の利用
・立場を変える
背理法
微分
積分
ゲーム理論

詳しい目次は…『ビジネス×数学=最強』目次(PDF)

 

↓は出版社が付けてくれた内容紹介です。

本書は、誰もが本来もっている論理的思考力を呼び覚まします。著者によれば、文系の人は自らが秘めた力に無意識なぶん、むしろ「のびしろ」があるそうです。日々の仕事で選択に迷うとき、袋小路に入りこんだとき、数学は活路(=答え)を導く武器になるのです。まさに読んでナットク、知ってオトクな「実学数学」18講義。本書で「偶然」のヒラメキを意識的な「必然」に変えられる、最強ビジネスパーソンになってください。

出版社サイト→ビジネス×数学=最強 - 株式会社 すばる舎

ヒ?シ?ネス×数学=最強

ビジネス×数学=最強

 

 

 

【書籍】NHKテストの花道 【教科別】ニガテ解消の合格術

NHKテストの花道 【教科別】ニガテ解消の合格術

 

昨日、主婦と生活社さんから『NHKテストの花道 【教科別】ニガテ解消の合格術』が発売されました。

本書には以前出演させて頂いた際に紹介させてもらった「もどりま表」「ゴールから考える!」が掲載されています。

 

blog.donaldo-plan.com

 

blog.donaldo-plan.com

 

放送時の内容は上記リンクをご覧頂ければ、と思いますがこのように書籍としても紹介していただいて大変光栄です。

本書は、各科目の苦手克服がテーマで「花道の先輩」が行っていた勉強方法が他にもたくさん紹介されています。ご興味のある方は是非お手に取ってみてください。

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ちなみに、「もどりま表」を紹介させて頂いた「数学って面白い!」の回は、来る4/18(土)午前10:00~再放送されるそうです。 NHK テストの花道

 

NHKテストの花道 【教科別】ニガテ解消の合格術

NHKテストの花道 【教科別】ニガテ解消の合格術

 

 

数学に才能は必要か?(理系大学進学に必要な4つの能力)

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先日、とある生徒さんから

「数学って結局、才能ですか?」

と聞かれました。確かにこれは多くの方が疑問に思うところでしょう。

これについての私の答えは…

数学者になるためなら「YES」、大学入試を突破するためなら「NO」

です。

何ごともそうですが、物事には努力すれば到達できるレベルと、努力に加えて才能もあってはじめて到達できるレベルとがあります。大学入試問題を解くことは(たとえ難関校の問題であっても)「努力すれば到達できるレベル」だというのが私の持論です。

料理に喩えると…

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(1)努力で到達できるレベル①[素人]

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一般的な料理(カレーやチャーハンなど)がレシピ通りに作れる
教科書の例題が解けるレベル

(2)努力で到達できるレベル②[上級者]

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冷蔵庫の残り物から(レシピなしに)そこそこ美味しいものが作れる
難関大学の入試問題が解けるレベル

(3)才能が必要なレベル[プロ]

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「一流店」と言われる店で出されるような美味しくて独創的な料理が作れる
数学者としてやっていけるレベル

といった感じです。

料理で(2)の「上級者」レベルにいる人はいわゆる「料理上手」ではありますがこのレベルに到達するのに「特別な才能」は必要ないだろうと思います。ただ、(1)の「素人」レベルにある人が闇雲にレシピ通りに作り続けてもなかなか「上級者」レベルには到達しないもの。「上級者」レベルに行くにはレシピを真似るだけではダメで、一歩踏み込んで素材の特徴を知り、調味料や調理方法の意味を知る必要があります。

例えば、

  • みりんを入れる→(意味)てり・艶を与える
  • 野菜の面取りをする→(意味)煮崩れをふせぐ

などでしょうか(私の料理レベルは「素人」なので突っ込まないでください…)。

数学も同じです。
教科書の例題や問題集の解法を意味もわからずに真似ているだけでは決して(2)のレベルには到達しません。関数や方程式やベクトルといった「素材」の特徴を知り、定理や解法の「意味」を掴むことが必要なのです。

理系大学進学に必要な4つの能力(by 秋山仁先生)

…とは言っても

「それでもやっぱり、文系と理系では頭の構造が違うじゃないの?」

という意見は根強いものです。これについては数学者の秋山仁先生がその著書『数学に恋したくなる話 (PHPサイエンス・ワールド新書)』の中で「理系大学進学に必要な能力」として4つの能力を挙げていらっしゃいます。

数学に恋したくなる話 (PHPサイエンス・ワールド新書)

  1. 自分の靴を揃えて指定されている自分の靴箱にしまえる
  2. 知らない単語の意味を、辞書を引いて調べることができる
  3. カレーライスが作れる〔レシピを見ても良い〕
  4. 最寄り駅から自宅までの地図が書ける

これらをそれぞれ“翻訳”すると次のようになります。

(1)1対1対応の概念が分かる

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自分の左右の靴を対応させ、さらに指定されている自分の靴箱に対応させることができるのはすなわち1対1の概念が分かっている証拠です。

(2)順序関係を理解できる

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例えば「study」ならsはアルファベットのrの後で、次のtはsとuの間の文字で・・・と26文字のアルファベットについてその順序関係が分かっていることが必要になります。

(3)手順を整理し実行&観察ができる

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ひとつの料理を作り上げるには、材料を揃え、作業の手順に従って適切な処理をし、経過を観察する力が必要です。

(4)抽象能力がある

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地図を描くという作業は3次元空間を2次元平面に落としこむ作業です。その際には余計な情報を削ぎ落とし、道順に必要な情報だけを抜き出して表現する抽象能力が要ります。

 

こんな風にまとめられると、文系の方でも

「これくらいなら私にもできそうだな」

と思ってもらえるのではないでしょうか? 

実際、数学者になって世界の数学界をリードするような人間になりた場合は別として、理系の大学に進学したり、仕事で必要な数学を理解したりするために、特別な「数学の才能」は必要ありません。

 教師の責任は重い

でも!だからこそ!!数学教師の責任は重大です。ただ単に定理や解法を表面的に教えるのではなく、生徒さんにはしっかりとその「意味と意義」を伝えていかなければなりません。そして正しい方法で勉強できるように導く責務があります。

冒頭の質問をしてくれた生徒さんにも

「数学は、才能じゃないかも!」

と実感してもらえる日が来るようにこれからも精進します!
(`・ω・´)ゞ

 

《2018.4.21 追記:この記事と関連する内容で講演をさせていただきました》

大人のための数学勉強法 ― どんな問題も解ける10のアプローチ

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住宅ローンの返済回数を計算する式を導く[NPER関数の正体]

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昨日、妻から

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「住宅ローンを繰上げ返済するとどれくらい返済回数が減るかって、すぐに計算できる?」

と質問されました。私としては、

「もちろんできるよ!」

と言いたいところでしたが、(正直に言うと)住宅ローンの返済回数の計算は少々面倒です…(・_・;)

 

住宅ローンの繰り上げ返済については便利なサイトが色々あって、借入元金 、借入期間、金利、繰り上げ返済金額などを打ち込めば、どれくらい期間が短くなって、どれくらい利息分を減らせるかをすぐに教えてくれます。

 

しかし、

「このサイトで分かるよ」

とお茶を濁すのは、一応数学を生業にしている身としては情けない。

やはりここは自分の手で立式したいところ。

必要な数学は高校数学で学ぶ数IIの対数と、数Bの等比数列の和です。

 

(注)ちなみに元利均等払いで返済した場合の支払い回数についてはExcelにその名もNPER(Number of PERiods)関数というものがあることが分かりました。これを使えば指定した額に到達するまでに必要な支払い回数が計算できるようです。下に導く式はこのNPER関数の正体でもあります。

⇒ 参考 : ExcelのNPER関数の使い方

住宅ローンの支払回数を計算する

以下の計算では

借り入れ元金:{ \displaystyle A}

毎月の返済額:{ \displaystyle p}

一月あたりの金利(複利):{ \displaystyle r}

とします。

1か月後の残高

1か月後には{ \displaystyle p}円を返済するわけですが、1ヶ月の間に元金は利息が付いて{ \displaystyle A(1+r)}円になっています。つまり、借り入れから1ヶ月後の残高は

{ \displaystyle \color{blue}{A(1+r)-p}}[円]

です。

2ヶ月後の残高

次に借り入れから2ヶ月後の残高は、上記の1か月後の残高に利息分を上乗せした額から返済額を差し引いたものになります。つまり

{ \displaystyle \{ \color{blue}{A(1+r)-p}\}(1+r)-p= \color{green}{A(1+r)^2-p(1+r)-p}}[円]

です。

3ヶ月後の残高

同様に3ヶ月後の残高は

{ \displaystyle \{\color{green}{A(1+r)^2-p(1+r)-p}\}(1+r)-p}

{ \displaystyle =A(1+r)^3-p(1+r)^2-p(1+r)-p}[円]

となります。

nヶ月後の残高

これを繰り返すと、{ \displaystyle n}ヶ月後の残高は

{ \displaystyle A(1+r)^n-p(1+r)^{n-1}-p(1+r)^{n-2}-\cdot\cdot\cdot -p(1+r)-p}

{ \displaystyle =A(1+r)^n- \{p+p(1+r)+\cdot\cdot\cdot p(1+r)^{n-2}+p(1+r)^{n-1}\}}[円]…①

です。最後の{ }の中

{ \displaystyle p+p(1+r)+\cdot\cdot\cdot p(1+r)^{n-2}+p(1+r)^{n-1}}

は、初項が{ \displaystyle p}、公比が{ \displaystyle 1+r}、項数{ \displaystyle n}等比数列の和*1になっているので

{ \displaystyle p+p(1+r)+\cdot\cdot\cdot p(1+r)^{n-2}+p(1+r)^{n-1}=p \frac{(1+r)^n-1}{r}}

と計算できます。①式にこれを代入して{ \displaystyle n}ヶ月後の残高を求めると

{ \displaystyle A(1+r)^n- p \frac{(1+r)^n-1}{r}}

支払い回数の計算

支払いが終わるとき、残高は0。このときの{ \displaystyle n}が求める支払い回数です。

{ \displaystyle A(1+r)^n- p \frac{(1+r)^n-1}{r}=0}

{ \displaystyle  \Rightarrow rA(1+r)^n- p(1+r)^n+p=0}

{ \displaystyle  \Rightarrow (rA-p)(1+r)^n=-p}

{ \displaystyle  \Rightarrow (1+r)^n= \frac{-p}{rA-p}}

{ \displaystyle  \Rightarrow (1+r)^n= \frac{p}{p-rA}}

{ \displaystyle  \Rightarrow n \log (1+r)= \log \frac{p}{p-rA}}

{ \displaystyle  \Rightarrow \Large \color{red}{n = \frac { \log \frac{p}{p-rA}}{ \log (1+r)}}}

 

グラフを書いてみる(返済回数曲線)

せっかくなので、上で得られた式の{ \displaystyle n}(支払い回数)を、{ \displaystyle A}(借り入れ元金)の関数とみなして、グラフを書いてみました({ \displaystyle p=}毎月の支払額は{ \displaystyle 20}[万円]、{ \displaystyle 12 \times r=}年利は{ \displaystyle 3}%にしています)。

 

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私は勝手にこれを「返済回数曲線」と名づけました(`・ω・´)ゞ

一つ特徴的なのは、借り入れ元金が3000~4000万円のあたりは曲線がほぼ直線で近似できそうだということです。これは、元金(残高)が3000~4000万円の場合

繰上げ返済金額(=元金の減少分)と返済回数の減少分はほぼ比例する

ことを意味します。

実際、元金(残高)が4000万円の場合に上の計算式で計算すると

100万円を繰上げ返済→返済回数は10回減

300万円を繰上げ返済→返済回数は29回減

500万円を繰上げ返済→返済回数は47回減

となります(繰上げ返済額が大きくなると比例関係がやや崩れますが…)

 

「だからどうした!(#・∀・)」

と言われてしまえばそれまでですが、個人的にはブログを書く動機にはなるくらいのトリビアでした!

 

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