永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【講演】数に強くなるために必要な3つの条件(天狼院書店「Esola池袋店」STYLE for Biz)

昨日、天狼院書店「Esola池袋店」STYLE for Bizさんで『 東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業 』の発刊イベントをさせていただきました。

スライドのご紹介

その際に使ったスライドの一部をご紹介します。

《ビジネスと数字》

もちろん、数字そのものが読めない、という方はいないでしょう。でも数字が読めることと、数字の意味(数字が表すなにがしかの概念)がわかることはまったく別の話です。それは、「I love you.」 を「アイ・ラブ・ユー」と読めるからと言って、「I love you.」が意味する本当のところがわかるとは限らないのと同じです。

語弊を恐れずに言えば、ビジネスパーソンであっても、職種によっては英語がわからなくても大丈夫かもしれません。でも、数字の意味するところがわからなくてもよいケースというのは、少なくともビジネスの上では皆無ではないでしょうか? ビジネスである以上、そこには必ずお金が関係します。そもそも金銭の多寡は数字で表されるわけですから、仕事をしていく上で数字の意味するところがわからなくても大丈夫ということは考えられません。顧客データにも在庫管理表にも人事データにも数字は溢れています。それなのに、数字が意味のない無機質な記号にしか見えないというのは、何割かはまったく知らない言語が混じる世界で仕事しているようなものだと言ったら言い過ぎでしょうか。

《機械学習とAI》

平成が終わろうとしている今日のビジネスシーンにおいて最もホットな話題といえば、やはり機械学習とこれを応用したAI(人工知能)でしょう。機械学習とは、人間が行う学習と同等の「学習」をコンピュータに行わせようとするテクノロジーのことを言いますが、その際コンピュータが読み込むデータはすべて数字です。人の好みや感情も数値化されます。そして、機械学習を行うコンピュータが膨大なデータの中から規則性や判断基準を見つけ、未知のものを予測する際に使うのが統計学です。

 《統計教育の充実》

2012年から施行されている、いわゆる「脱ゆとり世代」の高校の指導要領では記述統計の基礎が文理問わず必須の単元になっています。また、2022年から始まる予定のカリキュラムではさらに推測統計も必須になります。これは、現代が人類史上最も「数字がものを言う時代」だからでしょう。ITの技術が進歩し、データマイニングと機械学習のニーズが高まることによって、数字が判断と予測の基準となる世界が急速に広がっています。

こうした時代の流れを受けて、私立文系の雄である早稲田大学の政治経済学部では、「先の見えない不確実な世界で、利用可能なエビデンスに基づいて論理的に問題を分析して解決策を構想し、多様な他者と協働して解決策を実行できる人材」を育成するため、2021年度の入試から、受験者全員に数学が必須化されることが発表されました。AIに「使われる」のではなく、自らの「外部脳」として使いこなすためには、文系理系問わず数字に対するリテラシーを高めることが急務だからでしょう。

このような時代において、「数に強い」ことがビジネスパーソンにとってどれほど有利な資質であるか、もうこれ以上言う必要はないと思います。

でも、だからと言って、いまさら数学を学び直したくない、というのは多くのビジネスパーソンの本音ではないでしょうか? 安心してください。数に強くなるために数学の力は必要ありません。

数学に強いということは既存の公式を適切な場面で使うことができるだけでなくそれらを組み合わせて未知の問題を解決していく方法を探り、最終的にはまたその新しい問題に対する公式や解法を一般化できるということです。

演繹的思考を積み上げて具体的な問題に対処し、そこで得られた知見を再び抽象化して次の演繹的思考に生かせる能力が重要であることは言うまでもありません。

しかし、本書でお伝えする数字に強くなるための能力は、文字式を通じて具体と抽象を自由に行き来するような数学の力ではありません。数学の難問を解くように何十分も何時間もかけて(時には何日も何年もかけて)一つの問題を突き詰めて熟考する力ではなく、短い時間ですぐさま答えを導き出す力です。厳密な答えではなくとも行動の指針となるような、あるいは判断の基準となるような数字を即座に考えられる力とも言えます。数に強くなるために必要なのは、数学の力ではなく、算数の力です。

また、数に強くなるために、2桁×2桁、3桁×3桁のような計算が暗算できる必要もありません。暗算は1桁×1桁の計算(九九)ができれば十分です。(最適桁数は1桁である、という話も後でします)

では、数に強くなるための条件とは何か? それは次の3つの条件だと私は思っています。

たとえば、1万円のヘッドフォンを買うとします。20%現金値引きのA店と20%ポイント還元のB店ではどちらで買った方がお得でしょうか? 比較には割合を使います。

ちなみに、25%のポイント還元であれば、

払った金額÷得た価値=10000÷12500=80% → 20%の得

で、20%の現金値引きと同じ「得」になります。

前提として割り算には2つの意味があることを理解しておく必要があります。

20世紀を代表する経済学者であり、マクロ経済学を確立させたジョン・メイナード・ケインズの言葉です。

たとえば、日本の人口。総務省統計局の発表を見れば2018年の1月1日時点で「124,629,588人」であることがわかります。しかし、これは本当に「正しい」といえるのでしょうか? やんごとなき事情で出生届がきちんと出されないケースもあるでしょうし、そもそも日本国内では数十秒に1人の割合で赤ちゃんが誕生しています(もちろん亡くなる方もいらっしゃいます)。

どんな場合でも、厳密な数字をはじき出すのは非常に難しいので健闘むなしく結果として間違ってしまうことは少なくありません。これが「正確に間違う」ということです。

一方、「日本の人口は約1億2千万人である」というのは、決して間違ってはいません。もっと大胆に1億人である、と言ってしまっても桁は合っています。これが「漠然と正しい」ということです。

ここで大切なのは、「桁違いでなければいい」と考えることです。ビジネスにおいてもだいたいの数字の規模がわかれば必要な判断を下すことができるシーン、話の内容が理解できるシーンはたくさんあります。そのための計算は1桁×1桁の計算で十分です。漠然と正しくあるための最適桁数は1桁なのです。

東京都下水道局によると、平成27年度末で484,058個(約50万個)

フェルミ推定における各推定量は当然誤差を含みます。その誤差が積み重なって、(仮説は正しいのに)最終的な結果が大きく違ってしまうという可能性も否定はできません。でも、ふつう誤差の分は上にずれたり下にずれたりするのでいくつかの推定量を掛けたり割ったりしているうちに互いの誤差は相殺されてしまうことの方が多いです。

つまり、フェルミ推定では分解によって細かく分ければ分けるほど良い推定になることが期待できます。

フェルミ推定は色々なアプローチが考えられます。上の推定についても、これが絶対的な正解というわけではありません。興味のある方は是非、ご自分でも色々と試してみてください。その際、「自分ではどうしたらいいかわからない」という方は他人の方法を参考にされるといいでしょう。いくつかのアプローチを知るうちに、段々とコツがわかってくると思います。フェルミ推定で使う計算は、算数のレベルの簡単なものです。難しく考えずに、一種ゲームのように「習うより慣れろ」の精神でたくさんの事例を参考にしてみてください。

 《参考》

一般社団法人日本自動車販売協会連合会のデータを見ると、2017年の新車販売台数は普通車、小型車、軽自動車の合計でおよそ428万台でした。

端的に言ってしまうと、定性的というのは「数値・数量で表せないさま」のことであり、定量的というのは「数値・数量で表せるさま」のことを言います。
たとえば「夏までには今より痩せるぞ!」というのは定性的な表現で「7月までには今より5㎏体重を減らすぞ!」というのが定量的な表現です。
そして、一般には質的にしか表せないと考えられている事柄を数値・数量で表そうとすることを定量化といいます。

ソフトバンク元社長室長の三木雄信(みき たけのぶ)氏の著作『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)によると、ソフトバンクでは、「営業利益=売上ーコスト」を上のように考え、「顧客数」「顧客単価」「残存期間」の3つの数字を最大化し、「顧客獲得コスト」「顧客維持コスト」の2つの数字を最小化することで、会社の利益を最大化することを目指しているそうです。営業利益をこのような定量化できたのは、売上とコストをそれぞれ
 売上=顧客数×顧客単価×残存期間
 コスト=顧客獲得コスト+顧客維持コスト
と分解できたからです。

定量化においても、重要なのは分解です。

キャノンの御手洗冨士夫会長はある雑誌のインタビューで次のように仰っています。

目標を数字で表現すると、その数字の実現に何をどうすればいいのか、誰がどのような筋書きでどのような仕事をし、それにはどんな場面が必要なのか、方法論としての物語が浮かび上がってくる。……数字なき物語も、物語なき数字も意味はなく、実行も達成もできないでしょう。数字とその実現を約束する物語を示すことで、経営計画の信憑性を高め、市場や株主からの信頼性を確保する。数字力が言葉に信の力を与える。

数字は物語を伴って始めて意味を持つのです。そして定量化による「物語」はいつも、比較や変化を表す数字から始まります。

たとえば、朝、猫がキャットフードを食べたという事実を「午前8時に体重4㎏の猫が50gのキャットフード食べた」と定量化できたとしても、これだけではほとんど何の意味もありません。午前8時という時刻がいつもと同じなのかどうか、あるいは50gのキャットフードを何分ぐらいで食べきったのかという比較や変化がわかってはじめて、「いつもより1時間遅く朝ご飯をあげたところ、わずか1分で食べ切ってしまった…」というような物語が始まるのです。そしてそこから「とてもお腹を空かせていたのだろう」という仮説が立ち、「お腹を壊すといけないからご飯はできるだけ決まった時間にあげることにしよう」というアクションにも繋がります。

そうです。定量化の真の目的は仮説を組み立て、さらにアクションにまで繋げていくことなのです。比較や変化を示す数字が物語の幕開きなら、アクションこそが物語のエンディングです。

ベトナムのオーケストラと恋に落ちた日本人指揮者の16年間 - Yahoo!ニュース

数字に限らず、人は意味のわからないものは嫌いです。反対に意味のわかるものには自然と興味を惹かれるものでしょう。数字アレルギーの人が数字を嫌うのは、そもそも数字の意味がわからないからではないでしょうか?

知識は焚き火に似ていると私は常々思っています。キャンプファイヤーをやるとき最初の火を起こすのは少々骨が折れますが、一度火がついてしまえばその火を大きくしていくのはそう難しいことではありません。数字の知識も同じです。色々な分野について「火種」になり得る基本の数字を知識として持っていれば、数字の知識がどんどん広がります。そうなれば数字に興味を持つことができて、数字が言葉よりも雄弁に語りかけてくるメッセージを受け取れるようになります。

もちろん、そうした数字の知識は数字を比べようとする際にも欠かせません。
数字に強い人は、自分の専門分野はもちろん、専門外の様々な分野についても基本となる数字の意味を知っているものです。

1、2、3……と続く整数の中には様々なキャラクター持った数が潜んでいます。奇数、偶数、素数、合成数、平方数、立方数、三角数、四角数、友愛数、完全数、メルセンヌ数、フィボナッチ数などなど。

数字に強くなる第一歩は数字と仲良くなることです。日々目に飛び込んでくる数の羅列の中に、そのキャラクターを知っている数があれば、まるで旧知の友に町中で出くわすような親しみと喜びを覚えてもらえることと思います。一つ一つの数字の個性を知れば数字は無味乾燥な記号ではなくなるのです。

完全数はそんな数の個性のひとつであり、6は最も小さな完全数です。6の次の完全数は28。

余談ですが、中世の研究者の中には、最初の完全数が6であることは神が6日間で世界を創造したことと関係があり、次の完全数が28であることは月の公転周期が28日であることと関係があると考え、「宇宙は完全数によって支配されている」と主張する人もいたそうです。これについては、イングランドへのキリスト教布教で知られるカンタベリーの聖アウグスティヌスも次のように述べています。「6はそれ自体完全な数である。神が万物を6日間で創造したから6が完全なのでなく、むしろ逆が真である」

IT企業グーグル(Google)の社名の由来をご存知でしょうか?

グーグルの社名は、10の100乗(  10^{100} :1の後に0が100個並ぶ数)を意味するグーゴル(googol)を、共同創始者のラリー・ペイジが誤って綴ったことに由来すると言われています。

グーゴルは、アメリカの数学者であったエドワード・カスナー(1878-1955)が、『数学と想像力』という著作の中ではじめて紹介した数の単位です。かねてからカスナーは、子供たちに数学への関心を持ってもらおうと1の後に0が100個続く数の名前を考えていました。そこで何かいい名前はないか? と甥のミルトン・シッタ(当時9歳)に相談したところ、「グーゴルはどうか」と提案され、これを採用したということです。
カスナーはまた、1の後にゼロがグーゴル個続くグーゴルプレックスと言う数(  10^{10^{100}}=10のグーゴル乗)も考案しました。グーゴルプレックスは グーグル本社社屋の名称であるグーグルプレックス(Googleplex)の名前の由来にもなっています。

ちなみに、全宇宙にある素粒子の数はおよそ10の80乗(  10^{80} )個程度とされていますから、ものを数えるというシーンにおいて「グーゴル」やまして「グーゴルプレックス」を使うシーンはまずないでしょう。

しかし、数学にはグーゴルやグーゴルプレックスよりもはるかに大きな数が登場します。それがグラハム数です。 

グラハム数は、数学の証明で使われたことのある最大の数として1980年にギネスブックに認められました。グラハム数はあまりにも巨大な数であるため、10の◯乗のような指数で表記することは現実的に不可能です。そのためグラハム数を表すには、「クヌースの矢印表記」と呼ばれる特別な表記法を用います(本書では詳細を省きますが、気になる方は「グラハム数」で検索してみてください)。

グラハム数の大きさを表す際、「グラハム数を十進法で書き表し、これを印字しようとした場合、全宇宙にある物質のすべてをインクに変えても全く足りない」と言われることがあります。

先程も書きました通り全宇宙の素粒子の数は10の80乗個程度ですから、仮に1つの粒子で1つの数字が書けたとしても(もちろん実際には1つの文字を書くためにはもっとたくさんの粒子が必要です)、10の80乗桁の数、すなわち   10^{10^{80}} 程度までしか書けません。これはグーグルプレックスよりも小さな数ですから、グラハム数を表すには確かに「全く足りない」のです。いずれにしても、グラハム数は人類の想像をはるかに越えた巨大数だと言えるでしょう。

日本は2007年以降人口減少の一途を辿っており、2050年には現在の約1億3千万人から9700万人まで落ち込むと予想されています(国土交通省試算)。今より25%も減ってしまうわけです。さらに、2065年には8800万人になるという計算もあります。ジェットコースターで言うと、現在はてっぺんから先頭車両が下を向き始めたところだと表現する人もいます。

人口の増減に直接関わる数字には3つあります。それは出生率と出生数と死亡数です

出生率には2種類あります。ひとつは一定の人口(通常1000人)に対するその年の出生数の割合を表す「普通出生率」で、もうひとつは一人の女性が一生のうちで産む子供の平均人数を表す「合計特殊出生率」です。日本では単に「出生率」いうと「合計特殊出生率」指すことが多いです 。

日本の合計特殊出生率の過去最高値は1947年の4.54でした。これは同時期に戦地からの復員が相次いだためで、この頃に生まれた人たちを「団塊の世代」といいます。女性の社会進出が進み、1975年に2.0を下回ってからは低下傾向が続き、2005年には1.25まで落ち込みましたが、現在は1.4程度まで回復しています。

なお、人口を維持するために必要な(合計特殊)出生率は2.07です(この数字も覚えておいていいかもしれません)。

アメリカの天文学者カール・セーガンが「コスモス」というテレビ番組の中で披露した「宇宙カレンダー」を紹介したいと思います。宇宙カレンダーでは宇宙の誕生から現在までを1年に縮めて考えます。

人類が誕生してからはまだわずか8分で、近代科学が幕を空けてからは、たったの0.5秒しか経っていません。この尺度で考えると、人の一生は0.1~0.2秒ほどです。

今回のトークイベントでお話した内容は本の中のごくごく一部です。ご興味のある方は是非お読みください!

東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業

東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業

 

謝辞

出版不況といわれる中、飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続け、書店業界に衝撃を与え続けている天狼院さんで、発刊イベントの機会を頂きましたことを大変感謝しています。

実は私が持参したPCが不調で、講演の途中でフリーズしてしまったのですが、お店のスタッフさんが臨機応変に対応して下さり、事なきを得ました。これも事前に「万が一のときのためにスライドのファイルを送っておいてください」とご配慮をいただいていたおかげです。

天狼院書店取締役の池口祥司様、天狼院書店「Esola池袋店」店長の木村保絵様他、スタッフの皆様誠にありがとうございました。そして、何よりご来場いただきましたお客様に心より感謝申し上げます。

なお、本トークイベントの模様は(有料にはなってしまいますが)後日配信される予定です。詳しくは下記リンク先をご覧ください。

本日開催!動画配信あり!学生歓迎!【6/29(金) STYLE for Biz】東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 『数に強くなる本』発刊記念 数に強くなるための3つの条件《著者永野裕之さんゲストイベント》 | 天狼院書店