永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【新刊】『大人のための「中学受験算数」』(NHK出版)

6/12に『大人のための「中学受験算数」』(NHK出版新書)が出ます。

出版社の内容紹介

以下は出版社がつけてくれた内容紹介です。

難関中学の入試問題で、予測困難な時代を生き抜く10の発想を磨く!

情報を視覚化する、虫の目と鳥の目で見る、差や比を考える……数学的着眼点を養えば、経験したことのない問題に対して最適な解決法を見つけられる。

文系・理系を問わず、必要不可欠な数学の力を、「解く喜び」を感じながら獲得できる画期的な一冊。

大人が中学受験算数に取り組む意義

大人のための「中学受験算数」: 問題解決力を最速で身につける (NHK出版新書 701, 701)

本書は、大人中学受験の算数の入試問題を通して、問題解決力(数学の力)を身につけるための本です。

私がふだん大人の方に数学を教えていて面白いと思うのは、大人は数学の問題の解法の中に見られるアイディアを、仕事や生活に活かせるところです。子供はどうしても「勉強」の範疇の中で完結してしまいがちですが、大人は数学の問題の解決法を、ライフハック(生活や仕事など、日常的な課題を解決するための知恵)にまで拡げることができます。

ただ、題材が「数学」である以上、たとえばベクトルの問題を使って問題解決能力を磨こうと思ったら、まずはベクトルの基本概念を理解してもらわなくてはなりません。そうなると、多くの社会人にとってはハードルが高くなってしまいます。

かと言って中学の1、2年で習う簡単な数学だけで解けてしまう問題では、深い納得感はなかなか得られません。

こうしたジレンマの中で、なんとかして学生時代に数学が苦手だった大人の方にも、数学の力=問題解決力を身につけてもらう方法はないかと考えていたところ、思い付いたのが「中学入試の算数を使う」ということでした。

私の挑戦がうまくいったかどうかは読者の皆様のご判断に任せるしかありませんが、「またこの考え方が出てきたぞ」「この見方は”数学的”だったのか!」という気づきがたくさんあることを願っています。

そうして、他人にとっては鮮烈に思えるヒラメキが、ご自身にとっては必然になる快感を味わっていただければ筆者としてこれ以上ない幸せです。

算数であれば、前提となる知識を改めて勉強してもらう必要はほとんどないでしょう。その上、前述の通り中学入試の算数で問われる力は、数学の力です。与えられた条件と限られた知識を使って、いかに「未知の問題」を解くかという醍醐味を十二分に味わっていただくことができます。

前提となる知識は最低限に抑えながら、数学の力=問題解決能力を、楽しみながら磨くことができる、これこそ大人が「中学入試の算数」に取り組む意義です。

中学入試のリアル

「最近の中学入試の問題は、東大生でも解けない」と言われますが、あながち冗談ではありません。

たとえば、2022年の中央大学附属中学校の入試問題ではこんな問題が出ました。

【問題】点Oを中心とする半径8cmの円があります。円の斜線部分の面積は何㎠ですか? ただし、円周率は3.14とします。

解説は本書をご覧いただくとして(答えは、68.48㎠)、率直に「難しい」と思われた方が多いのではないでしょうか。

2023年度の四谷大塚「Aライン80偏差値」(合格可能性80%に必要な偏差値)を見ると、中央大学附属中学校の偏差値は男子が57、女子が59となっています。近年人気の大学附属ではありますが、際だって難関校というわけではありません。いわゆる中堅校です。またこの問題は、本番の入試では大問1の小問集合の中のひとつとして出題された問題であり、受験生としては確実に解きたい問題と言えます。

これが昨今の中学入試のリアルです。

中学受験生たちはこうした問題を解く厳しい訓練を受けています。たいていは小学3年生の2月から塾に通い(もっと早くから通塾する子もいます)、つるかめ算、流水算、ニュートン算、差集め算などの特殊算や、平面図形や空間図形のかなり難しい問題をたくさん解きます。そういう訓練を通じて、大人も舌を巻く難問に対応するための考え方のバリエーションを増やしていくわけです。

中学受験の実情を知らない方は「中学入試の算数が難しいと言ってもxやyを使って方程式を立てれば簡単でしょ?」と思われがちですが、それは大きな誤解です。中学受験の算数の問題で「方程式を使えば簡単に解ける」ような単純なものはほとんどありません。方程式や√ や三角比を使って解こうとすると、式を立てることが難しかったり、計算が非常に面倒だったりして苦労します。しかし、そういう問題も、図解したり、思考実験したり、俯瞰したり、差や比に注目したりすれば鮮やかに解ける。それが中学入試問題の面白いところです。

私は普段、数学塾の塾長として、中学生から社会人に至るまで幅広い世代に数学を教えていますが、当初は中学入試の算数については門外漢でした。それだけに、初めて中学入試の算数の問題を見たときはその質の良さ、レベルの高さに驚きました。

中学入試の算数は、小学校で教えられている算数とは別物であり、出題者が受験生の未来を見据えていることがはっきりわかる問題ばかりです。入学後に提供される学びの場で十分に成長できる資質を持っているかどうかを確認することに焦点が合わされており、題材こそ「算数」ですが、試しているのは数学の力であると私は思います。

 

受験算数で鍛える「問題解決のための10の発想」

そうは言っても、問題を漫然と解いて見せるだけでは、問題の面白さやわかったときの快感は味わって頂けとしても、日常に活かせるような「問題解決能力」の習得には繋がらないかもしれません。

そこで本書では、私がいつも問題を解くのに使っている10個の発想を特に強調してお伝えしています。これらの力を組み合わせれば、どんな問題も解けると私は思っています。つまり、先ほどから繰り返している「問題解決能力」とはこれらの力の総称です。

このBlogではタイトルだけご紹介します。詳しくは本書をご覧ください。

《問題解決のための10の発想》

  1. 逆を考える
  2. 情報を図や表にする(視覚化)
  3. 差や比を考える(相対化)
  4. 思考実験する(具体化)
  5. 法則を発見する(抽象化)
  6. 虫の目と鳥の目で見る(解析と俯瞰)
  7. 周期制を利用する
  8. 対称性を使う
  9. 言い換える
  10. 評価する

目次

序章 なぜ、 中学受験の算数で「問題解決力」が鍛えられるのか

  • 中学入試のリアル
  • 算数と数学の違い
  • 大人が中学受験算数に取り組む意義
  • 受験算数で鍛える 「問題解決のための10の発想」
  • 本書の使い方
  • COLUMN 1 なぜ特殊算が必要なのか

第1章 柔軟な発想力がつく即効レッスン

  • 問題1. 白陵中[俯瞰・法則の発見・言い換え]
  • 問題2. 城北中[法則の発見・隣り合うものの差]
  • 問題3. 鷗友学園女子中[逆を考える ]
  • 問題4. 江戸川学園取手中[情報の視覚化・差の利用・評価]
  • 問題5. 芝中[言い換え・逆を考える ]
  • 問題6. 同志社中[情報の視覚化]
  • 問題7. 浦和明の星女子中 (改題)[言い換え・俯瞰]
  • 問題8. 昭和学院秀英中[評価]
  • COLUMN2 算数と数学の区別はいつから

第2章 問題解決のための道筋はこうつける

  • 問題1. 浦和実業学園中[思考実験・法則の発見]
  • 問題2.早稲田佐賀中[対称性の利用]
  • 問題3. 栄東中[周期性の利用]
  • 問題4. 桐朋中[逆を見る視点]
  • 問題5. 渋谷教育学園渋谷中[言い換え・比の利用・差の利用]
  • 問題6. 聖光学院中[言い換え・比の利用]
  • 問題7. 六甲中(現・六甲学院中)[情報の視覚化・周期性の利用]
  • 問題8. 慶應義塾中等部 [対称性の利用]
  • COLUMN3 暗算のテクニック

第3章 最難関問題で算数の奥深さを味わう

  • 問題1. 神戸女学院中等部 [逆を見る視点]
  • 問題2. 灘中 [対称性の利用]
  • 問題3. 海城中 [言い換え]
  • 問題4. 洛南高等学校附属中 [逆を見る・比の利用]
  • 問題5. 奈良学園中 [思考実験・法則の発見・評価]
  • 問題6. 桜蔭中 [逆を考える・言い換え]
  • 問題7. 駒場東邦中 [思考実験・法則の発見]
  • 問題8. 開成中 [情報の視覚化・比の利用]

おわりに

謝辞

本書は山路達也さんに執筆のご協力をいただきました。この場をお借りして深く御礼申し上げます。また、NHK出版の依田弘作さんにも編集面で様々ご尽力をいただきました。重ねて感謝申し上げます。

また、珠玉の 入試問題の収載を許諾してくださった各中学校の関係者の皆様にも厚く御礼申し上げます。