永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

新刊『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』(SBクリエイティブ)

6/2に新刊『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』(SBクリエイティブ)が出ます。

出版社の内容紹介

以下は出版社がつけてくれた内容紹介です。

1つのストーリーで読む新感覚の数学の教科書!

【累計100万部突破シリーズ最新刊! 】

数学の勉強といえば、

「たくさんの公式や解法をひらすら暗記!付け焼刃の知識で問題演習!」

というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?

結局ぜんぶは覚えきれず、挫折してしまった人も多いかもしれません。

でも本当は、数学の勉強に公式の丸暗記なんて一切不要! 中学で習う、図形、数と式、確率、関数、統計、の5単元をそれぞれの歴史的「起源」から学ぶことで、バラバラで意味不明だった数学の知識が1つのストーリーでつながります。

現役の中学生からロジカルシンキングを身につけたい社会人まで、必読の1冊!

情報を視覚化する、虫の目と鳥の目で見る、差や比を考える……数学的着眼点を養えば、経験したことのない問題に対して最適な解決法を見つけられる。

文系・理系を問わず、必要不可欠な数学の力を、「解く喜び」を感じながら獲得できる画期的な一冊。

どうしたら数学ができるようになるか?

職業柄、「どうしたら数学ができるようになりますか?」と聞かれることが多いです。

そんなとき私は決まって「暗記しようとしないことです」と答えます。

公式を暗記し、そこに数字をあてはめて問題を解く、という行為は数学的ではありません。

テストが終われば丸暗記した公式は忘れてしまうでしょう。 反対に、「なぜそういう結論になるのか」というプロセスに目を向けられるようになれば、数学は、いずれ忘れてしまう知識ではなく、忘れたくても忘れられない知恵になります。

今回、大ヒットシリーズである「一度読んだら絶対に忘れない」の数学編の執筆依頼を頂戴したときは、大変嬉しく思いました。私が日頃、数学教師として最も大事にしていることをお伝えできるテーマだったからです。

「エピソード記憶」こそが勉強のコツ!

数学を「絶対に忘れない」知恵にするための方法をお伝えする前に、人間の記憶について簡単に紹介させてください。

人間の記憶は、概ね上の図のように分類されます。この中で勉強に関係するのは「長期記憶」の中の「宣言的記憶(顕在記憶)」です。

宣言的記憶(顕在記憶)は、さらに「意味記憶」「エピソード記憶」に分かれます。

意味記憶というのは、いわゆる丸暗記です。「フランスの首都はパリ」のような一般的な知識や概念に関する記憶です。ただし、意味記憶として長期記憶を作るには反復しかありません。何十回、何百回と繰り返し出会った知識がやっと長期記憶になるというわけです。

一方のエピソード記憶は「小学校4年生の夏休みにおばあちゃん家に行って縁側でスイカ食べたなあ」のような個人的な経験や出来事に関する記憶のことをいいます。一度体験しただけなのに、ずっと覚えているというのがエピソード記憶の特徴です。

本来エピソード記憶はなにかを実際に体験したときに作られる記憶ですが、映画や小説などを通じてバーチャルに経験したことでも、エピソード記憶になる可能性があります。確かに、一度しか見ていない映画や小説の筋をずっと覚えていることってありますよね。

ここに勉強のヒントがあります。

ポイントは「ストーリー」です。

人間は、ストーリーのあるものを、エピソード記憶として一生忘れない記憶にすることができます。

では、数学のストーリーとはなにか?

それは「証明」です。

どんな定理や公式も「証明」というストーリーがわかれば、「絶対に忘れないもの」になります。

意味記憶(丸暗記)に頼って何十回、下手したら何百回も反復する勉強は大変です。それでいて、数学のように理解を求められる教科では効果があがりません。一方、勉強にエピソード記憶を取り込めれば、1回で(多くても数回で)内容を記憶できる上に、本質を理解できます。

「証明」が重要なもう1つの理由

『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』より

数学において証明が重要な理由はもう一つあります。

それは、「数学のセンス」が身につくことです。

教科書に載っている定理・公式の証明には、3000年に及ぶ数学の歴史の中で、各時代、世界で最も数学ができた天才たちの気付きやアイディアが詰まっています。

数学のセンスを身につけるうえで、これ以上の模範はありません。

実際、入試問題を含め、色々な数学の問題を解いていると、定理・公式の証明に登場する考え方・発想を使うものが非常に多いことに驚きます。

入試の最頻出問題は、「定理・公式の証明」であると言っても過言ではありません。

ですから、私は本書の執筆にあたり「証明」に最もこだわりました。プロセスを省いて「こういうことになっています」と単なる知識を紹介することは徹底的に避けたつもりです。

たとえば、三角形の合同条件や球の体積を求める公式は、中学の教科書には証明が載っていませんが、これらについても紙幅の許す限り丁寧に説明しました。

数学史は学び直しのモチベーションになる

『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』より

「一度読んだら絶対に忘れない」という強力なコンセプトを実現するために、証明の他に用意したストーリーがもう一つあります。それは、数学史です。

本書は、それぞれの時代の文明と共に育まれてきた数学の歴史をサブストーリーとして取り込み、全体を1つの物語として展開しています。

これによって、一見バラバラに見える内容が繋がり、ある一端をつかめば、まるで地引き網のように数学の全体をたぐり寄せられるようになるでしょう。

また数学史は、大人が数学を学び直すモチベーションも高めてくれます。

学生は新しいことを学ぶことに慣れているので、一々「なぜこれを学ぶのか?」と疑問を持ちません。しかし大人はそれを学ぶ理由が分からないとなかなか先に進めないものです。

そんなときは「どうしてその数学が生まれたのか?」という歴史に目を向けることをお薦めします。そうすれば、それぞれの数学の必然性が明らかになり、数学を学ぶ意欲が湧いてきます。

本書の紹介

『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』より

各章の内容を簡単に紹介してまいりましょう。

第1章の「図形」では、古代ギリシャで発展し、ユークリッドの『原論』にまとめられた幾何学(図形)の内容を扱います。

『原論』がその後2000年以上も読み継がれ、欧米の知識階級の常識になったことからもわかるように、図形についての学びの中には論理的(数学的)に考えることのすべてがあると言っても過言ではありません。

それだけに、この章は全体の中で一番難しいです。本書は歴史を縦糸にしている関係で、「図形」が1章に配置されていますが、他の章を終えてから1章に戻ってきていただくのも良いでしょう。 図形を通して論理(ロジック)を学ぶ事こそ、中学数学を学ぶ最大の肝であると考えてください。

第2章の「数と式」では、インドやイスラム世界など非ヨーロッパ圏で発展した数学、特に負の数を含む計算方程式の解法因数分解平方根の扱い方などを紹介します

第3章の「確率」では、中世ヨーロッパの貴族社会の中でギャンブルが盛んになったことで生まれた確率の基礎について学びます。

第4章の「関数」は、16〜17世紀の科学革命の引き金となったデカルトによる座標平面の導入に焦点を当て、代数学と幾何学の統合から関数の概念の登場、そして(中学の内容を逸脱しますが)微分積分へと至る道筋もたどります。

最後に第5章の「統計」では、18〜19世紀の近代国家の形成、20世紀のコンピュータの発達に伴うデータマイニングのニーズを通して発達した統計の基礎を学びます。

今や統計リテラシー(統計を理解し使いこなす能力)は社会人の必要不可欠な素養になりました。そこで本書では中学の範囲を超えて「標準偏差」「正規分布」「推測統計」などの発展的な内容も扱います。

目次(抜粋:クリックで拡大します)

数学のボトルネックは割り算

『一度読んだら絶対に忘れない数学の教科書』より

私は社会人を対象とした「大人のための数学塾」を開いていますが、生徒の皆様のお話を伺うと、割り算の理解がボトルネックになっているケースは本当に多いです。

数学を暗記で乗り切る、という悪しき習慣は

「距離÷時間=速さ」や「質量÷密度=体積」

のような式の意味がつかめずに丸暗記してしまったところから始まっているのではないでしょうか?

そこで本書では割り算を中心的に扱う「算数のおさらい」という序章を設けました。割り算の2つの意味分数の割り算割合など、大人でも理解が難しいテーマを詳しく解説しています。

謝辞

この度、『一度読んだら絶対に忘れない』シリーズの数学編を執筆させていただく機会を頂戴しましたことを、改めて深く感謝申し上げます。

累計100万部を超える大ヒットシリーズということで、非常に光栄です(それだけにプレッシャーもありましたが…)。

私は30年にわたる教師生活を通して、数学に苦手意識を持つ方に寄り添い、サポートしてきました。数学が苦手な方の躓き処は熟知しているつもりです。

本書にはこれまでに培ってきた数学を教えるノウハウを詰め込めたと自負しています。

と同時に、表面的な易しさだけを求めるのではなく、基礎を徹底し、読者の皆様が数学の本質ともきちんと向き合えるように最大の注意を払って書きました。

本書を通じて、数学が「忘れたくても忘れられない」知恵になることを願ってやみません。

最後になりましたが、本書編集担当の山田涼子さんには、心からの感謝の意を表したいと思います。山田さんは、常に細やかな配慮をもって執筆のサポートをしてくださいました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。