永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

『パパは塾長さん』に励まされて〜塾無し中学受験を終えて思うこと〜

 

ここ数年、中学受験の過熱ぶりがよくニュースになっています。

我が家の2人の娘も中学受験をしましたのでその過酷さはよく知っているつもりです。

紆余曲折があって、長女は小学6年生から、次女は最初から最後まで完全に塾無し受験でした。代わりに教えたのは私(算数・国語・理科*1担当)と妻(社会・理科*2担当)です。

『パパは塾長さん』

親が子供を教えることの難しさは、巷間よく言われており、下手をすると親子関係が破綻する恐れもあります。そのため、「塾無し受験」をすることには当初不安もありましたが、一冊の本との出会いが勇気をくれました。それが、 三田誠広さんが書かれた『パパは塾長さん 父と子の中学受験 』(河出書房新社)です。

三田さんのご子息が受験されたのは80年代の後半なので、今よりはどこか牧歌的な雰囲気も漂いますが、それでも芥川賞作家でもいらっしゃる三田さんの描かれる中学受験は、リアリティと情感に溢れ、本当に素晴らしいです。

中学受験の実態を知って驚き戸惑う父の葛藤、子を思う愛情、息子と共に成長していく喜びといったものが、時にユーモアを織り交ぜながら、見事な筆致で書かれています。

中でも特に感動したのは、三田さんの親としての眼差しの優しさです。もっと言えば、中学受験を志すすべての小学生に向けてのエールがこの本には溢れています。

受験を終えて、
「理科の途中で頭が痛くなっちゃったし、面接でもうまく話せなかった」
と肩を落とす息子を、有無を言わさず「よくやった!」と抱きしめるシーンなどは、読んでいて胸が熱くなりました。

この本を読むと、遊びたい盛りの小学生に中学受験をさせて、詰め込み学習をさせるのは子どもの個性を潰してしまう…などの紋切り型の批判がいかに的はずれであるかもよくわかります。

以下、印象に残った部分をいくつか引用させていただきます。

【1】

現在の受験制度には、いろいろと批判もあるだろう。しかし黙々と模擬試験の会場に向かう子どもたちの姿をまのあたりにすれば、彼らのひたむきな努力に、頭を下げるしかないという気がした。列を作っている子どもたちの一人一人に、きみは偉い、と声をかけてやりたかった。そしてここにいるすべての子供が、目標の中学に合格するようにと、心から祈らずにはいられなかった。

【2】

「御三家」に限らず、一流の私立中学校が求めているのは塾でつめこみ教育を施された努力型の「秀才」ではなく、本質的に頭のいい子ども、「天才型」の子供である。創造性があり、自主的で、能力に余裕のある子どもなら教えるのも楽しいし、指導によって能力がさらに向上して、結果的に、東大を始め、有名大学への合格率も高くなる。

【3】

歴史の解釈というのものは、大きく言えば人生観や世界観に関わってくる。この現実の社会がどのような仕組みになっているかということや、この社会でいかに生きるべきかといったことも、すべて、歴史をどのようにとらえるかというところから出発するのだ。そのことを、親が直接、息子に教える。それは父と子の関係ということを考えた場合、最も重要な作業ではないだろうか。歴史を父親が教えなければ、子どもは勝手な歴史観を持ち、勝手な人生観を持つようになる。親子の断絶はそこから始まるのだ。

【4】

受験者の「深く考える」能力を引き出すように工夫された巧みな設問に出会う度に、私は芸術品に接したような感動を憶えた。そのような問題を息子と二人で考えるうちに、父と子の間に、深い絆が結ばれるようにも感じた。

【5】

受験勉強というものは、子どもにとって、はたから見ているほどつらいものではない。ある程度のトレーニングを積めば、より厳しく、高いハードルを超えることが、喜びになる。私は息子の目の輝きを、かたわらで見守ってきた。この息子の目の輝きと接することができただけでも、私は、息子とともに受験勉強に取りくむことにしてよかったと思う。

【6】

欲望を抑え、自分を励ます、というのは、要するに、セルフコントロールが出来るようになるということだ。知識が増えるとか、試験に合格するとかいった、結果ではなく、セルフコントロールが身につくというのが、中学受験を体験した子供が得る最大のメリットだと私は考える。

親が教えることの難しさ

運よく、娘たちは2人とも第一志望の学校に合格できました。

もちろん順風満帆だったわけではなく、定期的に受験していた公開模試ではなかなか成績が上がらず、娘の頬を涙が伝ったことも一度や二度ではありません。

ただ、私が一番心配していた親子関係の悪化はなかったです。

我が家の受験の話をするとたいてい「よくケンカににならなかったね」と驚かれます。もちろん、たまたまうまくいっただけかもしれません。でも、「親が子どもの前で、実際に解くことができた」のは大きかったと思っています。

自分と一緒に解いてくれる親が自分よりできるのであれば、「教わりたい」と思ってくれる子どもは多いはずです。

あと、ママが子供の前でパパをほめてくれることが多かったおかげで、子供が尊敬してくれていた(洗脳されていた?)のもやりやすかった要因だと思います(笑)。

中学受験は「親と子の最後の共同作業」と呼ばれることもあり、親の伴奏が欠かせません。ただし、親が勉強そのものに夢中になりすぎると、子供のトラウマになってしまったり、親子の信頼関係にひびが入ってしまったりする危険があるため、勉強面は塾にお任せして、親はスケジュール管理、教材管理、健康管理などの側面からのサポートに徹した方が良いという意見もあります。

とはいえ、子供が塾になじめない、塾では成績が上がらないといった場合、その子の性格に合わせてきめ細かく教えられるのは、親しかいないという場合もあるでしょう。

『ふたたびの理科(物理編)』のご紹介

宣伝になってしまい恐縮ですが…

もし、子供の為にも、問題を解けるようになりたい! チャレンジしたい! とお考えなら、ご紹介したい拙書があります。

それは『ふたたびの理科【物理】編』(すばる舎)です。

実はこの本の章立ては中学受験に登場する単元に準拠しています。(物理のみ)ふつうのテキストや参考書では省略されるようなことも省かずに、極めて詳しく書きました。

《参考》Google Play のサンプルページ
ふたたびの理科【物理】編 - Google Play Books

この本を読んでいただけると
「なぜ音速は温度によって変わるのか?」
「なぜ光の屈折は起きるのか」
「なぜ複数の電池を並列につないでも、電流の大きさは変わらないのか?」
「なぜモーターは発電機にもなり得るのか?」
「なぜ水圧は深さだけで決まるのか?」
「なぜ『振り子等時性』は成立するのか?」
といった疑問に、自分の言葉で答えられるようになります。そうなればきっと、お子さんの方から「もっと聞かせて」と言ってくれるようになるでしょう。

『ふたたびの理科』は今後、化学編と地学編も出させていただくことになっております。今は、他社さんの執筆に追われていて、手がつけられていないのですが、来年には書き始められると思いますのでどうぞご期待ください。

中学受験を終えた今思うこと

幸いにして、我が家は中学受験を通して,親子の絆を深めることができました。合格がわかった瞬間、家族で号泣し抱き合ったあの日の思い出は一生の宝物です。

中学受験において、勉強面も含めて親がサポートしていくことは、決して生易しいものではありません。やり方を間違えば逆に子どもの負担になってしまうことが、実感としてわかりました。

しかし、親自身が本質を理解し、受験テクニックではなく、学問の本質、学ぶことの意義を伝えられるのであれば、そして子どもの目線に立って共に悩み、共に喜びあえるのであれば、中学受験は、他には代えることのできない、かけがえのない「共同作業」の経験になるでしょう。

結果がどうあれ、中学受験の中で出会う幅広い知識は、将来様々な分野で「知の種」となります。新しい分野の「知の種」を習得するのは、大人より子どもの方がうんと得意です。「知の種」があれば、後は雪だるまが大きくなるときのように簡単に知識を増やせます。中学受験を通して得られる「知の種」は生涯の財産です。

受験の天王山、と呼ばれる夏休みもそろそろ終わります。秋からは怒濤の模試ラッシュ&過去問対策。ここからの5ヶ月はあっという間です。

兎にも角にも、すべての受験生とそのご家族が
「あ〜中学受験に挑んで良かった!」
と思える受験になりますことを、心からお祈り申し上げます。

*1:化学・物理・地学分野

*2:生物分野