永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【寄稿】東京二期会『コジ・ファン・トゥッテ』(2024年9月)

 

昨日は家族と一緒に、東京二期会の『コジ・ファン・トゥッテ』東京公演の千秋楽を観劇しました!

家族で伺うことになったのは、この公演のプログラムに『モーツァルトと数学』というテーマで寄稿させていただいたからです。一席分はご招待いただけることもあって(笑)、先日の歌劇団テオ・ドーロの公演がオペラデビューだった娘達に、今度は日本人によるオペラ公演の最高峰である東京二期会さんの公演を体験せたいと思いました。

オペラを観るときは、2階席のこの辺りが、舞台もピット内も見やすいのでお気に入りです。

東京二期会のプログラムには、これまで平野啓一郎さん、島田雅彦さん、原田マハさんなど、錚々たる方々が寄稿されており、その中に自分の文章を載せていただけることは大変光栄なことでした。また、何よりも、30代の頃に副指揮として携わった東京二期会さんと、こうして再びご縁をいただけたことが本当に嬉しく、感慨深かったです。

演出について

意外だったのですが、東京二期会で『コジ・ファン・トゥッテ』が上演されるのは18年ぶりとのこと。前回の2006年公演(演出:宮本亞門、指揮:パスカル・ヴェロ)には、私も参加しておりました。第61回文化庁芸術祭音楽部門の大賞を受賞した当時の亜門さんの舞台も見事でしたが、今回のロラン・ペリーさんの舞台も素晴らしかったです。

幕が上がると舞台の上はレコーディングスタジオ。ミキサー室なども含む立派なスタジオが再現されており、その迫力に圧倒されました。

1幕冒頭は、演奏される曲が録音されているという設定で始まりますが、曲が進むにつれて歌手たちは次第に「コジ」の世界にのめり込んでいきます。最初は行儀良く(?)端正に歌っていた歌手達が、徐々にマイクから離れ、譜面台を外し、心の中から湧き上がる感情に抗うことができなくっていく様子が、小道具等を通して分かりやすく表現されていたと思います。

また、舞台上を動く壁が歌手を取り囲むシーンが何度かありましたが、それは行き場のない登場人物の心情を象徴しているように感じられました。

6人のソリストはとにかく縦横無尽に舞台上を動き回ります。

アンサンブルの妙が命である「コジ」において、空間的に離されたり、走らされたりするのは歌手にとって大変難しかったと思いますが、皆さん本当にお見事でした。

中でもデスピーナ役の七澤結さんのバイタリティは圧巻! 医者や公証人に変装した時の声色の変化も含めてブラボーでした。

また、アルフォンソ役の黒田博さんも狂言回しとしての貫禄と安定感が抜群。日本一の「動けるバリトン」の面目躍如たるものだったと思います!!

演奏について

指揮はクリスティアン・アルミンクさんで、オーケストラは新日本フィルハーモニー、フォルテピアノ(チェンバロでは無く)は、かつて私もお世話になった山口佳代さんでした。

序盤、劇中劇が始まる前の段階では、あえて冷静な進行を意図しているように感じられました。レチタティーヴォに入るタイミングも、ドラマの流れに合わせるというより、各曲ごとの区切りをしっかり付ける雰囲気がありました。

しかし、劇中劇が進むにつれて指揮もオーケストラも熱くなっていきます。全体的に、歌手を引き立てる丁寧な音楽作りが印象的でしたが、ここぞというときのエネルギーの爆発はさすがでした。

私はコジを聴くといつも、「モーツァルトという人は、日常語とまったく同じ語彙力と自由さで音楽を紡ぐことができたんだなあ」とつくづく思います。

物語の筋書きはいかにもフィクションであり、荒唐無稽である一方で、音楽は普遍的な人間の真実を一切の過不足なく描き切る。それがコジの最大の魅力ではないでしょうか。

単なるドタバタ喜劇に終わらず、人間の苦悩や哀しみも溢れ出てきた今回の演奏は、そんな音楽の雄弁さが際立つ素晴らしいものでした。

その他

劇場に設けられたSNS用フォトスポット

劇場内にSNSにアップしやすいようなフォトスポットがあったり、わずか2000円で見られる学生席があったりと、随所に集客の工夫が感じられました。こうした取り組みのおかげで、もっともっとオペラの人気が高まっていくことを願っています。

ただ、その学生席は、チケットを取る段階では席がどこになるか分からないので、たとえば友達同士とか兄弟・姉妹で行きたいと思ったときは、並んで2席取れる保証があるといいなあと思いました。

本公演は、三重公演(9/14)、岡山公演(9/21)もあるそうです。お近くの方は是非、お運びください!

ホールでは、事務局長の山口毅さんや指揮者の下野竜也さんにもお会いできました。

山口さんはお世話になっていた20年前の当時と全然変わっていらっしゃらず非常に懐かしかったです。

尊敬する下野さんと

そもそも私が副指揮として東京二期会さんのプロダクションに入ることができたのは、下野さんのおかげなので、その下野さんと劇場でお会いできたのは、本当に嬉しかったです。

プログラム

デザインが素敵です

私の寄稿文はさておき、松田聡さんの詳しい全曲解説、ロラン・ペリーさんの長文インタビューなどに加え、写真も満載で、プログラムは非常に充実しています。

おまけ

インタビューを受ける私(もっと色々言いたかった!)

上のフォトスポットで、家族写真を撮っていたらスタッフの方からインタビューをお願いされました。ああいうとき、咄嗟に気の利いたことが言えるようになるといいのですが…(汗)いつか東京二期会さんのSNSで流されるかもしれません。