永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

「公益資本主義研究・実装センター設立発足式」に伺いました。

慶應義塾大学の三田キャンパスで行われた「公益資本主義研究・実装センター設立発足式」に伺いました。

結果、とてつもなく大きな勇気と希望を頂きました!

「公益資本主義」とは(後で改めて説明しますが)「世界中に教育を受けた健康な中間層を作る」ことを目的に、アライアンス・フォーラム財団会長の原丈人(はらじょうじ)さんが提唱されている新しい資本主義です。

発足式で登壇されたのは、前総理の石破茂さん、国民民主党代表の玉木雄一郎さん、慶應義塾長の伊藤公平さん、日本電子会長の栗原権右衛門さん、日本コカ・コーラや資生堂で会長を歴任された魚谷雅彦さんなど、錚々たるメンバーです(会場の入り口では、金属探知機を使った厳重なボディーチェックもありました)。

皆さんがそれぞれのお立場から「日本が再び世界から尊敬される国となるための条件」についてお話しになりました。共通するキーワードは、分厚い中間層の再生と、企業を株主のためだけではなく、社会全体の幸福に資する“公器”として再定義することです。

米国発の株主資本主義は、大きな経済格差を生むと、丈人さんは仰います。富の偏在は世界の先進都市で顕著であり、サンフランシスコのような「超富裕層と貧困層だけ」という都市が生まれているとのことです。

深い信頼を寄せられている日本

最初に登壇された石破さんのユーモア溢れるお話しには、会場が大きな笑いに包まれました。

総理在任中はご苦労が絶えなかったようで、曰く「土曜日の午後に秘書官たちとラーメンを食べに行ったら、『総理は暇そうでいいね』と書かれた」とか「アジアやアフリカから来日する来賓のために、その国のことを調べに図書館に行ったら、またしても『総理は暇そうでいいね』と言われた」そうです。

それでも、石破さんは努めて、特にアジアやアフリカの首脳と会談されました。そして「日本はアジアやアフリカの国々から深い信頼を寄せられている」と強く感じられたそうです。この「信頼」は、日本が持つ価値観——協調、誠実、分配、公平——によって形づくられていると強調されていました。

石破さんは、1994年には世界GDPの約18%を占めていた日本が、2025年には4%未満へと縮小する見込みであることも示されました。敗戦からわずか20年余りで世界2位のGNPにまで上り詰めたわが国が、今や長期停滞に陥っている——この閉塞感を打破し、格差社会を是正するためにも、日本らしい価値観を活かした「公益資本主義」には大いに期待している、と結ばれました。

公益資本主義研究・実装センター

慶應義塾の伊藤塾長は、『学問のすゝめ』の中で福沢諭吉が強調した「ミドルクラスの重要性」を引用され、現在の日本に必要なのはまさに「分厚い中間層」の再建だと述べられました。

「平均点が高い」という日本の特性を活かしつつ、「出る杭を打つこと無く、いかに世界から尊敬される集団を作るか」。それが教育の大きな課題だというお話には、私も強く共感したところです。

ところで、福沢諭吉の「三大事業」は、慶應義塾時事新報交詢社の三つを指します。

慶應義塾:近代国家に必要な人材育成と、実学重視の教育理念を体現する。

時事新報:政治・社会・国際情勢などに関する公平な論説を通じて、国民に近代的な政治意識や国際感覚を広める。

交詢社(こうじゅんしゃ):実業家・知識人の社交クラブ。議論・情報交換の場。

この三大事業は、それぞれ「教育(慶應義塾)」「言論・世論形成(時事新報)」「社交・政策論議の場(交詢社)」という役割を担い、近代日本における文明化と市民社会形成を多面的に支えるものとして構想されました。

今回設立される「公益資本主義研究・実装センター」の活動の三本柱も、福沢諭吉の三大事業をそれぞれ現代版に置き換える形で「これからの日本に必要な制度設計、情報判断のあり方の構築、経営支援を、このセンターから生み出していく」とのことです。

公益資本主義とは

「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉 (文春新書 1104)

公益資本主義については、私もまだまだ勉強不足ですが、発足会で伺ったお話しを通して理解したことをまとめてみたいと思います。

まず「公益」とは、「私たちや私たちの子孫の経済的、精神的豊かさ」のことを言います。公益資本主義では、会社を「社会の公器」と捉えます。

社会の公器であるためには、社会を良くする商品やサービスを作り出し、社会に貢献することが必要です。そして、得られた対価は、その会社を支える写真、顧客、仕入れ先、地域社会に還元されなくてはいけません。

国民民主党の玉木代表も、「富は、お金を出す者だけでなく、労働を提供する人へ還元すべき」と話されました。近年の研究では、人への投資は株価と正の相関があることが明らかになっていて、人を大切にする企業ほど価値が上がることがわかってきているそうです。

幕末の坂本龍馬らは長崎に「亀山社中」を設立しましたが、ここで言う「社中」とは「共通の目的のために組織された団体」という意味です。公益資本主義では、さらに広い意味で会社を支える全てを「社中」と呼びます。

社中に対する分配を大きくしていけばいくほど、社会全体での経済的・精神的な豊かさも大きくなっていくはずだ、というのがその理念です。

公益資本主義は、日本独自の歴史や価値観に深く根ざしています。

今回の発足会では登壇者の方々が異口同音に「日本的価値観に共感する人は世界にたくさんいる」と指摘されました。それは、公益資本主義が単なる国内改革ではなく、世界の資本主義の行き詰まりに対する“日本発の回答”となり得ることを示唆していると私は思います。

実際、関西経済連合会やトヨタ自動車、東レなどのトップが公益資本主義への賛同を表明しているとのことです。

原丈人さん

私が今回、この発足会に伺うことができたのは、丈人さんのご令妹にご案内を頂いたからです。彼女は、私のことを井上道義先生に紹介して下さった、私の人生の大恩人でもあります。

丈人さんはもともと考古学者を志されていましたが、遺跡発掘の資金を得るためにアメリカでビジネスを学ばれたことがきっかけで、ベンチャーキャピタリスト*1として成功を収められました。丈人さん曰く「技術を発掘し事業化するベンチャーキャピタルは、考古学と通じるところがある」そうです。

その後、丈人さんが出資された会社は、アメリカで次々と上場を果たしますが、そうなると株主資本主義の餌食となってしまいました。会社が持つ潜在的な成長力には目を向けず、短期的に株価をつり上げる「ファンド株主」に成長を阻まれるようになってしまったのです。

そんな中で生まれたのが「会社は株主の物ではなく、会社を支える『社中』のものであるべきだ」という「公益資本主義」の概念でした。

丈人さんと会われた方は誰もがその柔和な笑顔と、次々に世界中の事例が出てくる才気みなぎるお話しぶりに魅了されます。

そんな丈人さんのルーツであるお父様の原信太郎さんは、コクヨ株式会社で開発技術を担当され、300以上の技術特許を個人で請願・維持されただけでなく、世界的に有名な鉄道模型のコレクターでもいらした立志伝中の方でした。

幸運にも私は何度かお目にかかったことがありますが、ご自宅の見事な(という言葉でも到底言い表せませんが)鉄道模型の数々には本当に目を丸くしました。信太郎さんは私が生涯で出会った中で最も「豪傑」という言葉がお似合いになる方です。その一方で、お顔は今の丈人さんととても良く似ていらして、当時まだ高校生だった私にもとても優しい眼差しを向けて下さるのが印象的でした。

ちなみに、信太郎さんの素晴らしいコレクションは現在、横浜にあります「原鉄道模型博物館」で見ることができます。この博物館の館長は丈人さんです。

明るい未来のために

慶應義塾大学の東門を出てすぐの交差点で撮った東京タワー

発足会からの帰り道、私は非常に興奮しておりました。

最近は、暗いニュースが多く、また日本の未来を思うとき、暗澹たる心持ちになることも少なくなかったのですが、日本発の「公益資本主義」が世界中に広まれば、ふたたび日本が世界のリーダーシップを取り、世界中が豊かになっていく明るい未来が見えたからです。

誰もが感じている今の日本社会の閉塞感を打ち破るためには、これしかない!とさえ思いました。

原丈人さんという唯一無二の人物にだからこそ可能なことではありますが、一人の人間のアイディアがここまで多くの人の巻き込み、大きなムーブメントを作り上げてしまうことに、心から感嘆しました。世の中を変える、というのはこういことを言うのだろうな、とつくづく思った次第です。

そして「数学教育」という面から、微力ながら私にも何かお手伝いできることはないかと考えています。

 

*1:ベンチャービジネスが発行する株式への投資を行い、資金を提供すると同時に、経営コンサルティングを行う個人。