ちょうど10年前の今日(2003年5月9日)、宇宙科学研究所(現JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が打ち上げられました。はやぶさは2005年夏にアポロ群の小惑星イトカワに到達しその表面を詳しく観測、サンプル採集を試みた後、2010年6月13日22時51分、60億kmの旅を終え、地球大気圏に再突入しました。
地球重力圏外にある天体の固体表面に着陸してのサンプルリターンは、世界初。また、はやぶさは、最も長い期間を航行し、地球に帰還した宇宙機(2,592日間)でもあります。
一般的には、地球に帰還した6月13日が「はやぶさの日」ということになっているようですが、大学院生として宇宙科学研究所にいた者としては、打ち上げから10年、というのも感慨深いのでこの記事を書いています。
私が宇宙研にいた頃、先輩諸氏から「はやぶさ」(←という名前はまだなかった)の計画を聞いて
「(月以外の星から)直接取ってきちゃうんですか!\(◎o◎)/!」
と、興奮したのをよく覚えています。惑星探査の研究者としてまだまだひよっ子だった自分にもそれがどれだけ画期的なことかは分かりました。でも研究というのはよっぽどの成果をあげない限り、世間から注目されることはありません。ですからこのミッションがやがて日本中を、いや世界中を感動の渦に巻き込むことになろうとはその時は夢にも思いませんでした。
時が経ち「はやぶさ」の打ち上げが成功した頃、私は既に大学院を中退しウィーンに留学しておりました。先輩、同輩方の苦労を思うと、打ち上げ成功の報せはとても嬉しかったですし、その後通信が途絶えてしまった時は、実に哀しくなりました。
通信が断続的になり、地球への帰還が大幅に延期された頃には正直
「帰還は難しいだろうな…」
と思いました。それだけにほとんどこのミッションのことを忘れかけていた(ごめんなさい!)約4年後にカプセルが大気圏に突入し・回収されたと聞いたときは
「なんてドラマティックな筋書きなんだ!」
とむちゃくちゃ驚き、そして感動しました。
当時の宇宙研は国内の一研究機関としては大きな予算を付けて頂いていたとはいえ、宇宙探査としては決して潤沢な資金があるわけではなく、人材も限られていました(おそらく今も)。 また、惑星探査はいつも
「そんなことを研究して何になるんだ?」
という世間様からの逆風を感じるものです。 そういう厳しい状況の中でも決して諦めなかったプロジェクトチームの皆さんには本当に頭が下がります。まさに奇跡の帰還です。
「はやぶさ」のミッションとして意義
はやぶさがサンプルリターンに成功した小惑星は、惑星が誕生するころの記録を比較的よくとどめている化石のような天体で、この小惑星からサンプルを持ち帰ることで
「惑星を作るもとになった材料がどんなものか」
「惑星が誕生するころの太陽系星雲内の様子はどうか」
についての手がかりが得られます。また地球上でサンプルの分析が行えるため、回収される量が少量であってもその科学的意義は極めて大きいといえます。
ちなみに、これまで人類がサンプルを持ち帰った天体は月だけですが、月は変成してしまったため、月探査によって太陽系初期のころの物質について知ることはできませんでした。
はやぶさは最先端の工学的技術を習得する上でも大変重要な計画でした。今までのサンプル・リターン計画は、非常に大型のロケットが必要とされることから断念されてきましたが、より到達しやすい小惑星が見出されたことや、探査機の推進機関(エンジン)の高性能化により、実現可能となりました。 はやぶさ計画によって、電気推進、自律型の探査機技術、小天体からのサンプル採取、地球帰還から再突入などの技術が確立されたことは今後の宇宙探査にとって大きな一歩になったと思います。
「はやぶさ」大いなる挑戦!! (動画)
~ 世界初の小惑星サンプルリターン ~
当時のニュース
「帰還カプセル落下」のNHKニュース映像
関連映画
「はやぶさ」に関連する映画は3作作られています。