永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

ワープは可能か?

今日はワープについて(^_-)-☆


ワープ(warpとは「ねじ曲がる」という意味で、時空のゆがみを利用した長距離超光速航行のことを言います。超光速航行にはこれまでたくさんの方法が考案されていますが、今日はスタートレックにおけるワープに近い「ワープバブル」方式と、映画「コンタクト」で使われたワームホールを使った方法を紹介したいと思います。


ワープバブル方式

1994年メキシコの物理学者のアルクビエレスタートレックのワープ航法をヒントにして"warp drive: hyper-fast travel within general relativity"という論文を発表しました。

アルクビエレのアイディアは、宇宙船の周囲の時空にエキゾチック物質(≒負の質量を持つ物質)を使って、バブル(泡)を作り出し、そのバブルの後方で常に、小規模なビッグバン(極端な膨張)を起こしつつ船の前方で常に小規模なビッグクランチ(極端な収縮)を生じさせ、船を押し流すような時空の流れを生み出すことで、「超光速」を実現させようとうというものです。川に模型の船を浮かべ、船の後方に投石して流していくようなイメージです。

なぜ、このアイディアで超光速が実現できるのでしょうか?


少し話が脇道に逸れますが、先日「ニュートリノ『超光速』撤回」というニュースが流れましたね。このニュースは私も含め、世の中の科学者や科学好きの者たち安心させました。なぜなら、今のところ物理の世界で最も信頼できる理論であるとされているアインシュタイン相対性理論が覆されることにならずに済んだからです。 

相対性理論「ある空間内において光速を超えて移動すること」を禁止しています。
この意味でアルクビエレの理論は相対性理論とは矛盾しません(矛盾するようなら、まともに取り合ってもらえないでしょう)。彼のアイディアは、宇宙船が入っているバブルのまわりの空間が極端な収縮と膨張を繰り返すことでバブルの中の宇宙船は光速以下でも、バブルの外から見たらその移動は超光速になる、という考えだからです。

つまり、「バブルの中の宇宙船の速度(光速度未満)+空間の歪み>光速」によって超光速を実現しよういう考えです。


エネルギーの問題

しかし、アルクビエレの論文が発表された3年後の1997年にアメリカのフェニングアルクビエレのアイディアは、必要なエネルギーが莫大すぎて物理的に実現不可能」とする論文を発表しました。フェニングの計算によると、アルクビエレの理論を実現させるために必要なエネルギーは、何と、現在観測されうる全宇宙に存在するエネルギーの100億倍にもなるというのです。

とは言え、これによってアルクビエレの理論が完全に否定されたわけではなく、必要なエネルギーを小さくすませるための方法が今も色々と考案されています。


宇宙戦艦ヤマトとワープ


「ワープ」という言葉は日本では宇宙戦艦ヤマトのヒットで良く知られるようになりました。ただし「宇宙戦艦ヤマト」では、紙を折り曲げるように宇宙空間そのものを歪曲させて、現在地と目的地を4次元的に近づけることによる「ワープ」であり、その意味ではドラえもんの「どこでもドア」に近いアイディアです。
宇宙戦艦ヤマトのワープは、科学的な根拠があって考え出されたというよりは、想像の産物だったと思われます。でも、だからと言ってこのアイディアがまったく非科学的というわけではないと私は思います。なぜなら、ヤマトのワープのアイディアは映画「コンタクト」で使われたワームホールを利用したワープと考え方が非常に似ていて、ワームホールはミクロの世界では実際に存在すると考えられているからです。


ワームホール


ワームホール(wormhole)
とは「虫食い穴」という意味で、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域で、トンネルのような抜け道のことです。例えばリンゴの表面のある一点から裏側に行くには円周の半分を移動する必要がありますが、虫が中を掘り進むと短い距離の移動で済むことからこの名前が付けられました。

このようなワームホール一般相対性理論と矛盾しないことを最初に論じたのは他ならぬアインシュタインとその共同研究者達でした。ワームホール原子核よりもはるかに小さいミクロの世界には実際に存在していて、ごく短い時間間隔でワームホールが現れては消えるという現象が起きていると考えられています。
ただし、人間が通過可能な大きさのワームホールは存在したとしても、瞬時に潰れてブラックホールになってしまうことが理論的な計算から分かっていて、人間がワームホールを通過することは不可能である、と考えられてきました。

ワームホールを人間が通過するためには?


コンタクト 特別版 [DVD]
小説「コンタクト」を執筆中だったカール・セーガンが知人のソーン博士に地球外生命との接触が可能になるようなシナリオをなんとか科学的に作れないか、と相談したところ、ソーン博士は「通過可能であるワームホール (traversible wormhole)」を物理的に定義し、アインシュタイン方程式の解としてそれが可能かどうかを調べました。そして、「もし負のエネルギーをもつ物質が存在するならば、通過可能なワームホールアインシュタイン方程式の解として存在しうる」と結論し、さらに、時空間のワープやタイムトラベルをも可能にすることを示しました。ソーン博士の言う「負のエネルギーを持つ物質」とは、先ほども出てきた「エキゾチック物質」のことです。
ただし、ここでの議論は、現在の技術では制御が難しい高密度(中性子星の中心部ほど)の負のエネルギーの存在を前提としており、また、どうやってワームホールを通過するのか、あるいは出口がどこなのかは全くの未知の問題として棚上げされている点でまだ完成された理論とは言えません。

ワープはSFの世界だけの突拍子もない話だと思われがちですが、ホーキング博士をはじめ、世界中の一流の科学者たちが真剣にその可能性を探っています。いつの時代も一流の科学者は頭が柔らかいものです。
そしてそういう柔軟な考え方に触れる度に、この世に「絶対に不可能なこと」というのは驚くほど少ないのだと改めて思います。もちろん、ワープも例外ではありません(^_-)-☆


今日の動画

Warp Speed