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永野数学塾の「虎の巻」を公開する「語呂合わせと徹底整理で攻略する高校無機化学」シリーズ9回目の今日は遷移元素と錯イオン篇です。
遷移元素の中で特に重要なのが金Au、銀Ag、銅Cu、鉄Fe、クロムCr、マンガンMnです。また、遷移元素はすべて金属であることに注意しましょう。
最後に錯イオンについても学びます。
まずは遷移元素全般に言える性質から!
このシリーズをまとめたものは↓
遷移元素
周期表の1、2族及び12~18族の元素は典型元素と呼ばれる。典型元素は族番号が増えるに従って、最外殻電子の数が増えていき、同じ族では最外殻電子の数が同じなので化学的に類似した性質を示すのに対し、3~11族の元素は遷移元素と呼ばれ、族番号が増えても最外殻電子の数は1~2個のままであり、族番号が増えても最外殻の電子数(価電子)は増えずに内側の軌道に電子が増えていく。
このような電子配置のため遷移元素には典型元素にはない様々な特徴がある。
それでは各元素について詳しく見ていきましょう。まずは鉄からいきます。
鉄Fe
- 金属の中ではAlに次いで地殻に多く存在する。
鉄の製法
鉄の単体は鉄鉱石の赤鉄鉱(主成分Fe2O3)や磁鉄鉱(主成分Fe3O4)を溶鉱炉でCOや高温のCなどによって還元して得られる。ただしこの還元は次のように段階的に行われる。鉄の酸化数の変化に注意。
Fe2O3(+Ⅲ) → Fe3O4(+Ⅲ、+Ⅱ=Fe2O3+FeO) → FeO(+Ⅱ) → Fe(0)
こうして得られた鉄の単体には炭素などの不純物が含まれるが、これを銑鉄(せんてつ)という。銑鉄に酸素を吹きこみ余分なCや不純物のSやPをを酸化させて取り除いたものが鋼(こう)。鋼は「はがね」とも呼ばれ、強靭で多くの機械部品や建設材料に使われている。また銑鉄の上に浮かぶ不純物はスラグという。
鉄イオン
鉄のイオンにはFe2+とFe3+があります。これらは共に有色で、水酸化物イオン(OH-)、ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム、ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム、チオシアン酸カリウムなどと以下の表のように反応します。赤字のところが特に重要です。
ちょっと、苦しい語呂合わせですね…(すいません)。さあ(気を取り直して)、次は銅です!
銅Cu
- 赤みのある金属光沢.
- 電気・熱の良導体。
- 湿った空気中に放置すると表面に緑色のサビである緑青(ろくしょう:CuCO3・Cu(OH)2)生じる。
Cuの製法
黄銅鉱(CuFeS2)を溶鉱炉で還元して、硫化銅(Ⅰ)Cu2Sとする。次にこれに空気を送り込んでCuを得る。
- Cu2S + O2 → Cu + SO2
しかしこのようにして得られたCuの純度は99%程度でこれを粗銅という。粗銅の純度を高めるためには粗銅を陽極、純銅を陰極にして硫酸銅水溶液を電気分解する。これを電解精錬という。
- 陽極:Cu → Cu2+ + 2e―(Fe → Fe2+ + 2e― 、Ni → Ni2+ + 2e―)
- 陰極:Cu2+ + 2e― → Cu
陽極の粗銅の中の不純物のうちCuよりイオン化傾向の大きいFeやNiはイオンとなって溶け出し、Cuよりイオン化傾向の小さいAgやAuはイオン化せずに単体のまま陽極の下に沈殿する。これを陽極泥という。一方、陰極ではイオン化傾向のFe2+やNi2+よりイオン化傾向の小さいCu2+が電子を受け取って純銅ののまわりに付着する。これにより、純度約99.99%の純銅が得られる。
CuSO4・5H2O(硫酸銅五水和物)
- 青色の結晶。
- 熱するとH2Oを失って白色粉末になる。
銅イオン
銅のイオンにはCu2+とCu+があります。
Cu2+を含む水溶液にNaOHまたは少量のNH3を加えるとCu(OH)2の青白色のゲル状の沈殿を作るが、NH3を過剰に加えるとテトラアンミン銅(Ⅱ)イオン[Cu(NH3)4]2+という錯イオンを作って溶ける。
銀Ag
- 白色の金属光沢.
- 電気・熱の最良導体。
- また空気中に放置しても酸化はされないが、硫化水素とは常温ですみやかに反応する※。
4Ag + 2H2S + O2→ 2Ag2S + 2H2O - 化合物の酸化数は常に+1。
- 光の反射率が95%と高く鏡や魔法瓶、写真材料などに用いられる。
※ 硫化水素は温泉や自動車の排気ガスに含まれており銀製品の黒ずみの正体はこのAg2Sである。酸化銀であると勘違いしている人が多い。
AgNO3(硝酸銀)
- 無色の結晶で水によく溶けて光によって分解する(感光性)。
- 種々の銀化合物の原料。
- 硝酸銀水溶液にNH3を加えたものをアンモニア性硝酸銀水溶液(銀鏡反応※の試薬)という。
※ 水溶液中のAg+が還元されてAgが析出し、試験管の底が鏡の様になる反応。
AgX(ハロゲン化銀)
- AgF以外は水に不溶の沈殿を作る。
- 感光性があり、光が当たると分解して単体の銀を析出する(写真の感光剤)。
2AgBr + 光 → 2Ag + Br2
ハロゲン化銀の沈殿は次の溶解性も重要です。
↓AgClが沈殿する様子とAgClがNH3水に溶ける様子
銀イオン
銀のイオンはAg+1種類。
Ag+を含む水溶液にNaOHまたは少量のNH3を加えると褐色のAg2Oが沈殿しますが、NH3を過剰に加えるとジアンミン銀(Ⅰ)イオン[Ag(NH3)2]+という錯イオンを作って溶ける。
↓銀イオンとNaOHで沈殿ができる様子とさらにNH3を加えるとその沈殿が溶ける様子
さあ、次はクロムです。単体よりも化合物が重要です!
クロムCr
- 単体は極めて安定。
- イオン化傾向は水素よりも大きいが濃硝酸には不動態を作り溶けない。
- 両性金属。
- 合金の原料※としても広く使われている。
※ Cr + Ni : ニクロム、Cr + Fe + Ni : ステンレス鋼
→ 参考記事: 両性元素・水銀・合金篇
クロムが不動態を作ることや両性金属であることが問われることはあまりありません。クロムは化合物が重要です。
K2Cr2O4(クロム酸カリウム)
- 黄色の結晶。
- 沈殿を作りやすい。
K2Cr2O7(二クロム酸カリウム)
- オレンジ色の結晶。
- 硫酸酸性下で強力な酸化剤。
クロム酸イオン(黄色)を含む水溶液に酸を加えるとニクロム酸イオン(オレンジ色)を生じる。反対にニクロム酸イオンに塩基を加えるとクロム酸イオンに戻る。
クロム酸イオンもニクロム酸イオンもCrの酸化数は共に+Ⅵなので酸化還元反応では無いことに注意しましょう。
マンガンMn
- 単体は灰色の金属。
- イオン化傾向はAl>Mn>Znで大きい(空気中で容易に酸化される)。
- 酸化数は+Ⅱ、+Ⅳ、+Ⅵ、+Ⅶの様々な化合物を作る。
KMnO4(過マンガン酸カリウム)
- 水によく溶けて赤紫色のMnO4―を生じる。
- 硫酸酸性下で強力な酸化剤である。
↓KMnO4とH2O2の酸化還元反応でKMnO4がMn2+になると無色になる様子
MnO2(酸化マンガン)
- 水に不溶。
- 化学反応の触媒。
- 酸化剤(乾電池の正極活物質や塩素の実験室での製法※で使用)。
※ MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2↑
→ 参考記事:ハロゲン篇
錯イオン
金属イオンにNH3やH2OやCN―などの非共有電子対を持つ分子やイオンが配位結合をしてできた多原子イオンを錯イオンという。中心金属イオンに配位結合する分子や陰イオンを配位子、その数を配位数という。
主な配位子の名称
主な中心金属の配位数と構造
※ 配位数の基本はイオンの価数の2倍です。例外はFe2+の6。
構造の例
錯イオンの化学式と名称の付け方
- 化学式は全体を[ ]で囲み、その右上に錯イオンの価数を書く。
- 名称は配位数、配位子、中心金属(酸化数)の順でつける。
- 配位数にはギリシャ数詞を使う。
- 陽イオンの場合は最後が「~イオン」、陰イオンの場合は最後が「~酸イオン」になる。
「語呂合わせと徹底整理で攻略する高校無機化学」は今回が最終回です。(あとで目次的なまとめページは作る予定です)。お疲れ様でした!!m( )m