永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【数学塾直伝】0.999…=1のよくある証明(3種)の問題点と無限等比級数を使ったより厳密な証明(極限の解説付き)。

Stockton Infinity Bridge

先日、とある生徒さんからこんな質問を受けました。

友達が
[問]2.999... この職業は何でしょう?
[答]保母さん(ほぼ3)!
というクイズを教えてくれたのですが、数Iで勉強した循環小数*1では「2.999...=3」でした。だったら答えは「ぴったりさん(3)」ではありませんか?

有名なクイズですね。類題には

[問]8.999... この動物は何でしょう?
[答]孔雀(9弱)

というのもあります。

私はこの生徒さんに、とてもいいところに気が付きましたね、と褒めた後こう答えました。

「...」が有限個の9を表すのなら、「2.999...」は「ほぼ3」ですが、「...」が、限りなく9が続くときの極限を表すなら、「2.999...」は「ぴったり3」です。

こんな風に言うと、「2.999...≒3」ならわかるけど、「2.999...=3」は納得できない、という方は少なくないでしょう。

実際「2.999...=3」は、あくまで「...は9が限りなく続く極限を表す」と解釈してはじめて正しいと言える等式であり、極限の意味を理解しない限り腑に落ちないのは当たり前です。

そこで、この記事では「2.999...=3」と本質的に同じである「0.999...=1」のよくある証明とその問題点を指摘した上で、誤解されることの多い極限の解説極限を使ったより厳密な証明を紹介したいと思います。

よくある証明①

\begin{align}
\ 1÷3&=0.333… \\
\ \Rightarrow \frac{1}{3}&=0.333…\
\end{align}

両辺を3倍して

\begin{align}
\ \frac{1}{3} \color{red}{\times 3}&=0.333… \color{red}{\times 3}\\
\ \Rightarrow 1&=0.999…\
\end{align}

よって、

 0.999…=1

(証明終わり)

これが一番ポピュラーな「証明」だと思いますが、なんとなく騙されたような気がしませんか? その感覚はとても真っ当です。

0.999...という表記における「...」を「限りなく続く9を表す」と解釈するならば0.333....という表記における「…」もやはり「3が限りなく続く」と解釈できます。

それならば、掛け算というのは基本的に末尾の桁から行うことを考えると、どこまで行っても末尾を捉えられないものに対して「×3」を行うというのは、乱暴と言わざるを得ません。

よくある証明②

まず、 x=0.999… とします。

次に 10x-x を行います。

f:id:naganomath:20180608195818p:plain

 最初に、 x=0.999… としているので、

よって、

 0.999…=1

(証明終わり)

これは、数Iの循環小数の単元で習う方法ですが、やはり厳密とは言えません。引き算も、掛け算同様末尾の桁から行うことを考えると、末尾が捉えられない2数に対して引き算を行うことが妥当かどうかはしっかり検証すべきです。

よくある証明③

まず、 x=0.999…,y=1 とします。

\begin{align}
\ x+y&=1.999… \\
\ \\
\ \Rightarrow \displaystyle \frac{x+y}{2}&= \frac{1.999…}{2} \\
\ \\
\ \Rightarrow \displaystyle \frac{x+y}{2}&=0.999… \\
\end{align}

最初に、 x=0.999… と置いているので

\begin{align}
\ \Rightarrow \displaystyle \frac{x+y}{2}&=x \\
\ \\
\ \Rightarrow x+y&=2x \\
\ \\
\ \Rightarrow y&=x \\
\end{align}

 x=0.999…,y=1なので、

\begin{align}
\ 1&=0.999… \\
\end{align}

すなわち、

 0.999…=1

(証明終わり)

 

この証明は、末尾が捉えられない数(同じ数が限りなく続く数)に対して、末尾から行う掛け算や引き算は行わず、先頭の桁から行う割り算を使っているという点で上の①や②よりはマシかもしれませんが、 \displaystyle \frac{x+y}{2} の右辺の 0.999… と最初に置いた x=0.999…「...」が同じであるという保証が得られない点でやはり曖昧な「証明」です。

ただし、①~③のいずれも、結果が後に示す厳密な証明と一致することから、完全に間違いであるとは言い切れません。特に②の方法は、厳密さを多少犠牲にしても、循環小数が分数や整数で表せることを知ってもらいたいために教科書にも載っています。

極限とは

f:id:naganomath:20180609063042p:plain

上の図をみてください。全体は1辺の長さが1の正方形ですから、この大正方形の中の長方形や小さな正方形の面積を順々に限りなく足していった結果が大正方形の面積「1」に限りなく近づいていくことは明らかです。すなわち

\begin{align}
\ \frac{1}{2}+ \frac{1}{4}+ \frac{1}{8}+ \frac{1}{16}+ …=1 \
\end{align}

です。

しかし、この書き方では「...」が曖昧なので、書き方を改めましょう。

まず

\begin{align}
\ S_n=\frac{1}{2}+ \frac{1}{4}+ \frac{1}{8}+ \frac{1}{16}+ …+\frac{1}{2^n} \
\end{align}

とします*2

上の図から、 n を限りなく大きくすると、 S_n 1 に近づくのは明らかです。このことは→を使って

 n \longrightarrow \infty のとき、 S_n \longrightarrow 1  

と簡易的に書くこともできますが、正式には「lim」記号を使って表します。

一般に

  n を限りなく大きくするとき、 a_n がある値  p に限りなく近づくことが明らかならば、 a_n の極限(あるいは極限値)は  p である、といい、
\begin{align}
\ \large \displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n=p \\
\end{align}と表す

ので上の

\begin{align}
\ \frac{1}{2}+ \frac{1}{4}+ \frac{1}{8}+ \frac{1}{16}+ …=1 \
\end{align}

\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{n \to \infty} S_n =1 \
\end{align}

であり、

\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{n \to \infty} \left( \frac{1}{2}+ \frac{1}{4}+ \frac{1}{8}+ \frac{1}{16}+ …+\frac{1}{2^n}\right) =1 \\
\end{align}

とも書けます。

等比数列の和の極限(無限等比級数)

ここで「等比数列の和の公式」を思い出しておきましょう。

初項  a_1、公比  r、項数  n の等比数列の和は  r \not=1 のとき、

でした*3

ここで、もし  -1 \lt r \lt 1 であれば

 n \longrightarrow \infty のとき、 r^n \longrightarrow 0  

であることは明らか*4なので

\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{n \to \infty}a_1 \frac{1-r^n}{1-r} &= a_1 \frac{1-0}{1-r} \\
\ \\
\ &=\displaystyle \frac{a_1}{1-r}
\end{align}

となります。すなわち  -1 \lt r \lt 1 のとき

です。これが「無限等比級数の公式」です。

限りなく続く数列の和を「無限級数」といい、限りなく続く等比数列の和を「無限等比級数」といいます。

これを使えば、 \displaystyle \lim_{n \to \infty} S_n は初項  \displaystyle \frac{1}{2}、公比  \displaystyle \frac{1}{2} の無限等比級数なので

f:id:naganomath:20180609172048p:plain

です。

無限等比級数を使った0.999...=1の証明

0.999... は、次のように考えると、初項  \displaystyle \frac{9}{10}、公比  \displaystyle \frac{1}{10} の無限等比級数(等比数列の和の極限)と考えられるので

f:id:naganomath:20180609172113p:plain

となり、

 0.999…=1

を得ます。

(証明終わり)

極限についてのよくある誤解

極限はあくまで「限りなく近づく値」であるということに注意してください。

たとえば、 n を限りなく大きくすると、 \displaystyle \frac{1}{n} が限りなく  0 に近づくことは明らかなので

\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}=0 \\
\end{align}

は完全に正しい表記なのですが、こう書くと決まって生徒さんから

でもこれって、厳密には  \displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \fallingdotseq 0 ですよね?

という質問が来ます。

\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n}=0  n を限りなく大きくすると、 \displaystyle \frac{1}{n} が(やがて)  0 に等しくなることを意味するわけではありません。ご承知の通り、  n がどんなに大きくなっても、 \displaystyle \frac{1}{n} 0 に等しくなることはあり得ないのですが、 n が大きくなればなるほど、 \displaystyle \frac{1}{n} が近づく相手は(  0.1 -0.1 ではなく)  0 であるというのは紛れもない事実なので、「lim」を使って極限(近づく値)を表す際には「=」を使っているわけです。

一方、 n を限りなく  1 に近づけると、 \displaystyle \frac{1}{n} が限りなく  1 に近づくことも明らかなので

\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{n \to 1} \frac{1}{n}=1 \\
\end{align}

も完全に正しい表記です。この場合は、 \displaystyle \frac{1}{n} 1 に等しくなることがあり得ます。

要は、極限というのは、限りなく近づく値が何であるかを言っているに過ぎず、実際にその値になることがあるかどうかは別問題なのです。

極限は受験勉強と合格の関係に似ていると思います。努力すればするほど、合格に近づくことは明らかなので
\begin{align}
\ \displaystyle \lim_{努力 \to \infty} 受験勉強=合格 \\
\end{align}と「=」を使って書くことはできるのですが、実際に合格するかどうかは時の運やまわりの状況にもよります。つまり、上の式は、限りなく努力すれば必ず合格できるということを意味するわけではありません。

 

まとめ

結局のところ、「0.999...」という表記は、「...」が何を意味するのかが不明瞭な書き方ではあるのですが、「0.999...=1」と書くときは全体として「0のあと小数点以下に9を限りなく並べると1に限りなく近づく」という至極当然のことを言っている正しい表現なのだと理解してください。

 

*1:ある位から同じ数の並びが限りなく繰り返される小数

*2:Σを使えば曖昧な「...」を使わずに表すことができます。

\begin{align}
\ S_n= \displaystyle \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{2^k} \\
\end{align}

*3:

f:id:naganomath:20180609133033p:plain

より、

\begin{align}
\ (1-r)S_n=a_1(1-r^n) \\
\end{align}

なので、  r \not=1 のとき両辺を  1-r で割れば次の「等比数列の和の公式」を得ます。
\begin{align}
\ S_n= \displaystyle a_1 \frac{1-r^n}{1-r}
\end{align}

*4:例えば  0.5^2=0.25 , 0.5^3=0.125 , 0.5^4=0.0625 , … のように、-1と1の間の数は掛け合わせれば掛け合わせるほど0に近づきます