先日、とある生徒さんから
「数学って結局、才能ですか?」
と聞かれました。確かにこれは多くの方が疑問に思うところでしょう。
これについての私の答えは…
数学者になるためなら「YES」、大学入試を突破するためなら「NO」
です。
何ごともそうですが、物事には努力すれば到達できるレベルと、努力に加えて才能もあってはじめて到達できるレベルとがあります。大学入試問題を解くことは(たとえ難関校の問題であっても)「努力すれば到達できるレベル」だというのが私の持論です。
料理に喩えると…
(1)努力で到達できるレベル①[素人]
一般的な料理(カレーやチャーハンなど)がレシピ通りに作れる
→教科書の例題が解けるレベル
(2)努力で到達できるレベル②[上級者]
冷蔵庫の残り物から(レシピなしに)そこそこ美味しいものが作れる
→難関大学の入試問題が解けるレベル
(3)才能が必要なレベル[プロ]
「一流店」と言われる店で出されるような美味しくて独創的な料理が作れる
→数学者としてやっていけるレベル
といった感じです。
料理で(2)の「上級者」レベルにいる人はいわゆる「料理上手」ではありますがこのレベルに到達するのに「特別な才能」は必要ないだろうと思います。ただ、(1)の「素人」レベルにある人が闇雲にレシピ通りに作り続けてもなかなか「上級者」レベルには到達しないもの。「上級者」レベルに行くにはレシピを真似るだけではダメで、一歩踏み込んで素材の特徴を知り、調味料や調理方法の意味を知る必要があります。
例えば、
- みりんを入れる→(意味)てり・艶を与える
- 野菜の面取りをする→(意味)煮崩れをふせぐ
などでしょうか(私の料理レベルは「素人」なので突っ込まないでください…)。
数学も同じです。
教科書の例題や問題集の解法を意味もわからずに真似ているだけでは決して(2)のレベルには到達しません。関数や方程式やベクトルといった「素材」の特徴を知り、定理や解法の「意味」を掴むことが必要なのです。
理系大学進学に必要な4つの能力(by 秋山仁先生)
…とは言っても
「それでもやっぱり、文系と理系では頭の構造が違うじゃないの?」
という意見は根強いものです。これについては数学者の秋山仁先生がその著書『数学に恋したくなる話 (PHPサイエンス・ワールド新書)』の中で「理系大学進学に必要な能力」として4つの能力を挙げていらっしゃいます。
- 自分の靴を揃えて指定されている自分の靴箱にしまえる
- 知らない単語の意味を、辞書を引いて調べることができる
- カレーライスが作れる〔レシピを見ても良い〕
- 最寄り駅から自宅までの地図が書ける
これらをそれぞれ“翻訳”すると次のようになります。
(1)1対1対応の概念が分かる
自分の左右の靴を対応させ、さらに指定されている自分の靴箱に対応させることができるのはすなわち1対1の概念が分かっている証拠です。
(2)順序関係を理解できる
例えば「study」ならsはアルファベットのrの後で、次のtはsとuの間の文字で・・・と26文字のアルファベットについてその順序関係が分かっていることが必要になります。
(3)手順を整理し実行&観察ができる
ひとつの料理を作り上げるには、材料を揃え、作業の手順に従って適切な処理をし、経過を観察する力が必要です。
(4)抽象能力がある
地図を描くという作業は3次元空間を2次元平面に落としこむ作業です。その際には余計な情報を削ぎ落とし、道順に必要な情報だけを抜き出して表現する抽象能力が要ります。
こんな風にまとめられると、文系の方でも
「これくらいなら私にもできそうだな」
と思ってもらえるのではないでしょうか?
実際、数学者になって世界の数学界をリードするような人間になりた場合は別として、理系の大学に進学したり、仕事で必要な数学を理解したりするために、特別な「数学の才能」は必要ありません。
教師の責任は重い
でも!だからこそ!!数学教師の責任は重大です。ただ単に定理や解法を表面的に教えるのではなく、生徒さんにはしっかりとその「意味と意義」を伝えていかなければなりません。そして正しい方法で勉強できるように導く責務があります。
冒頭の質問をしてくれた生徒さんにも
「数学は、才能じゃないかも!」
と実感してもらえる日が来るようにこれからも精進します!
(`・ω・´)ゞ
《2018.4.21 追記:この記事と関連する内容で講演をさせていただきました》
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