9/9に『 ふたたびの理科【物理】編 』(すばる舎)が出ます。
出版社の内容紹介
以下は出版社がつけてくれた内容紹介です。
サイエンス――それは、この世の摂理と先人の英知に深くふれる旅。
たとえば不織布マスクから静電気について知ることができるように、ものの「しくみ」や「はたらき」は身近ないろんなところから学べます。理科がつまらない!なんて口が裂けても言えなくなる圧巻の400頁。
物理学というのは、自然現象について、できるだけ簡潔かつ普遍的な見方を見いだそう、という学問です。たとえば、ニュートンが発見した万有引力を使えば、リンゴが木から落下する運動も、月が地球のまわりをまわる運動も、同じ数式で説明することができます。これこそが物理の醍醐味です。空の青さも海の青さも、虹の七色も、光の持つ「波の性質」によって、いっぺんに理解することができます。
氷がとけて水になることも、熱を与えることによる固体から液体への状態変化の一例にすぎません。私たちの目の前で起きる自然現象は、ときに個人的であり、ときに一生忘れることのない特別な瞬間を与えてくれます。そのかけがえのなさを個人的な体験として、詩的に、ロマンチックに表現することは、とても素敵なことです。
一方で、森羅万象に通じる統一的な説明を知ることも、この世の美しさを知るもうひとつの大事な方法であると私は思います。 これからお話しする「物理編」を通して、自然界の美しさを感じていただけたら嬉しいです。 (本書「なぜ空は青い? ~物理への扉~まえがきにかえて」より)
どういう本か
中学受験に出題される理科の物理分野の内容を、「ふたたびシリーズ」らしく、徹底的に行間を埋めてお伝えしたい。それが本書の執筆動機でした。
読者として私が最も意識したのは、小学校のお子さんを持つ保護者の方です。本書をきっかけにして、お子さんと親御さんが自然現象の不思議と合理性の妙について話に花を咲かせてくれることを願って書きました。
それから、単純に小学校の「理科」を学び直したいという大人の方も、もちろん大歓迎です。小学校の理科の内容が本当の意味でわかれば、普段の生活の中で出会う身近な自然現象のほとんどを説明できるようになるでしょう。なお、中学受験に出題される内容のほとんどは、中学進学後の理科の授業でも改めて深掘りするので、本書の内容は、中学の理科を学び直したいという方にもきっとお役に立てると思います。
また「ふたたびの~」というタイトルではありますが、まさに現在進行形で理科を学んでいる、意欲的な小学生や中学生のお子さん自身にも読んでもらえたら嬉しいなあと思っています。もしそれが叶えば、筆者として望外の喜びです。
正直に申し上げると、私は自分が小中学生の頃、理科がそれほど好きではありませんでした。自然界には不思議なことが色々とあって、そのひとつひとつにはちゃんと理由がある、という期待感にワクワクする気持ちはあったものの、実際に背景を教えてもらっても、納得できない…というモヤモヤ感が残ることのほうが多かったからです。
そんな理科が俄然面白くなったのは、高校に進んだ後でした。
近代科学の父、ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)の「自然という書物は数学の言葉で書かれている」という有名な言葉を引き合いに出すまでもなく、自然現象を司るカラクリは、数学を通してやっと本質がわかるようになるからです。
しかし本書で私は、数式をできるだけ避けて説明を行いました。
本書を通読していただいた方は「小学生や中学生がこんなに難しいことを勉強するのか」と驚かれたかもしれません。あるいは「こんなに細かい所まで書いてくれなくてもいいよ」というご意見もあるでしょう。
しかし、高校レベル以上の数学を通して立ち上がる自然の「本当の姿」を、数式に頼ることなく、小中学生当時の私のような(疑り深く頑固な)少年・少女にも納得してもらうためには、ここまで言葉を惜しまず書く必要があると私は思います。
ご承知の通り、エッセンスをスマートにまとめた良書は、世の中にたくさんあります。だからこそ、たとえ説明がまどろっこしくとも、「行間がない」ことは、「ふたたびシリーズ」の真骨頂であると自負しておりますので、説明を端折ることは一切していないつもりです。
また、数式をできるだけ使わない代わりに、イラストをこれでもかという位にたくさん入れて頂きました。物理現象を表す数式は、本質をモデル化したものですが、良いイラストであれば、本質をモデル化できるのではないかと思うからです。
私はたまたま数学に親しむ機会があったので、理科の醍醐味をいわば原書で味わうことができました。でもその機会がなかった方もたくさんいらっしゃるでしょう。そんな方のために、自然という書物の「数学」を日常語とイラストを使って「翻訳」することに挑戦したのが本書です。
目次
まえがきにかえて~物理へのとびら
●なぜ空は青い?
●すべてが統一される美しさ
第1章 音とはなにか
●ピタゴラスの散歩から始まった探求
●音の三要素
●ドップラー効果
●雷の音 ほか
第2章 光とはなにか
●漢字の「光」も、英語の「light」も
●光の最も基本的な性質
●凸レンズ
●雲が白い理由 ほか
第3章 電気とはなにか
●不織布マスクのひみつ
●静電気
●回路とオームの法則
●直列つなぎ ・ 並列つなぎ ほか
第4章 磁石とはなにか
●磁石は「慈石」?
●棒磁石の真ん中に鉄くぎがつかないわけ
●地球は大きな一つの磁石 ほか
第5章 ばねとてこの原理
●物理学における「力」〜その2つの意味
●「百年の常識」に異を唱えたファラデー ほか
第6章 滑車と輪軸の物理学
●昔から身近な“機械”
●定滑車
●動滑車
●組み合わせ滑車
●自転車のギアの物理学 ほか
第7章 密度・圧力・浮力の物理学
●象の重さを量る、かしこい子どもの話
●氷山の一角は何%? ほか
第8章 物体の運動原理
●振り子の周期はなにによって決まる?
●運動とエネルギー
●力学的エネルギー保存則 ほか
おわりに/参考文献/さくいん
完全版の目次はこちら
なぜ「理科」なのか?
なぜ「ふたたびの物理」ではなく「ふたたびの理科(物理編)」という書名なんだろう? と思われた方は少なくないかもしれません。
出版社さんからは「ふたたびの物理」や「ふたたびの科学(物理編)」というタイトルの方が読者層が広がるのではないか、というご提案をいただいたのですが、それでも私は「理科」にこだわりました。
「理科」は教科であり、「物理」、「化学」、「生物」、「地学」は理科に含まれる科目です。
教科と科目は紛らわしいのですが、教科とは「教育内容をその特質に応じて区分し、系統的に組織化したもの」(広辞苑第七版)であり、科目とは「大学の教育課程または高校の教科を構成する単位」(広辞苑第7版)です。
簡単に言えば、教科とは学習内容を大まかに区分したものであり、科目とは教科を分野ごとに細分化したものと言えます。
たとえば、数学と理科は以下のような科目に分かれます*1。
ご承知の通り、小・中学校の時間割には「教科名」が並び、高校の時間割には「科目名」が並ぶのが普通です*2。
そのため多くの方が「理科」と聞けば小中学校で習った内容を、「物理」と言えば高校で習った内容をイメージされるのではないでしょうか?
私が本書で取り上げたのは「中学入試に出題される理科の物理分野」です。そのほとんどは「中学で学ぶ理科の物理分野」と被りますので、「小中学校の理科の物理分野」がまとめられていると思って頂いて構いません。
では、なぜ私は本書で「高校で学ぶ物理」について書かなかったのか。それは、数学をふんだんに使うことは許されないという小学校や中学校における制約はそのままに、大人が「理科」の内容を、子供(他人)に説明できるようになるまで理解する、そういう本にしたかったからです。もし私の目論見が当たれば、数学に不安のある大人の方にも、理科の原理の妙を存分に味わっていただけると思います。
小中学校の理科の説明は、数学の準備がないことを考慮する余り、どこか中途半端、どこか奥歯に物が挟まったような物言いになりがちです。原理の理解というよりは、どのような現象が起きるのかを知識として知ることができれば十分、という風潮も感じます。
でもそういう小中の理科の雰囲気は、好奇心旺盛な子供に「どうにも納得できない」という思いを抱かせるものです。子供時代のそういう感想を持ち続けている大人の方も多いのではないでしょうか。
- 空が青いのはなぜ?
- 気温によって音速が変わるのはなぜ?
- 直列つなぎと並列つなぎで豆電球の明るさが違うのはなぜ?
- 定滑車より動滑車を使った方が少ない力で済むのはなぜ?
- 水より食塩水の方が浮力が大きいのはなぜ?
…etc.
私は本書で、「理科」に対するモヤモヤ感を、端折らない説明と、豊富な図解を使って払拭することを目標にしました。言い換えれば、「理科」であるにも関わらず(小中で学ぶ内容であるにも関わらず)ここまで深掘りしている(行間を埋めている)というのが本書のアイデンティティーです。
ちなみに、過去には、高校の物理をできるだけ日常語でかみ砕いた『やりなおし高校物理 (ちくま新書)』という著作も上梓いたしました。こちらの詳しい内容は下記Blogをご覧ください。
また、微分積分を使って物理(力学)を考えることで、物理だけでなく数学の本質も捉えてしまおうという『はじめての物理数学 自然界を司る法則を数式で導く(SBクリエイティブ』という著作もあります。
脚注の多さについて
9/9に『ふたたびの理科(物理編)』が発売されます!中学受験に出題される内容を中心に、「ふたたびシリーズ」らしく、徹底的に行間を埋めて書きました。
— 永野数学塾 永野裕之 (@naganomath) 2022年8月30日
数式:かなり少なめ
イラスト:かなり多め
注釈:極めて多め
です!
さくいんも充実しているので、辞書的にも使って戴けると思います! pic.twitter.com/qRSD2eacsw
このtweetにもあります通り、数式が少ないこと、イラスト(図解)が多いことに加えて注釈(脚注)が極めて多いことも、本書の大きな特色の一つです。中には、1頁の半分近くを注釈(脚注)が占めている場合もあります。
本書の注釈の一番の目的は、もちろん行間を埋めるためです。本文の中に入れると冗長になりすぎる、あるいは発展的になると思われる内容を注釈に盛り込みました。
注釈というのは本来こうした補足説明のためにあるものですが、本書の場合、半分近くの注釈は言わば「寄り道」です。大人は、経験も知識も豊富なので、子供よりも寄り道を楽しむことができるでしょう。
大人のための学び直し本で大事なのは、読み進める原動力になるような知的好奇心を刺激する材料が紙面にたくさんあることだと私は思います。だからこそちょっと他には例がないくらいの多くの注釈を設けました。どうぞ思いのままに「寄り道」を楽しんでください。
サンプルページ
↓のGoogle ブックスでもプレビューできます。
謝辞
行間をなくしたい、イラストをたくさん入れたい、脚注もふんだんに書きたい等の数々のわがままを言う著者であるにも関わらず、「ふたたびシリーズ」を刊行し続けて下さっているすばる舎さんには、この場を借りて深く感謝申し上げます。
また一貫してシリーズの編集を担当して下さっているすばる舎の稲葉健さんには、今回も読者目線で数々のアドヴァイスを頂戴しました。そのほか本書のためにご尽力いただいたすべての方に、重ねて御礼申し上げます。