9月7日(月)にSCCさんから新刊が出ます。
タイトルは『 初歩からわかる数学的ロジカルシンキング 』です。
最近、どこかの知事さんが「高校教育で女子に(三角関数の)サイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」と発言して大きな問題になりました(その後、撤回されたようですが…)。
私は一数学教師として、この知事さんの発言には2つの論点から反論したいと思います。1つは、三角関数を大人になってから使う人は多くなくても、それを勉強しておかないと進めない道というのが確実にあるのだから―そして勉強とは将来の可能性を拡げるためにするものなのだから―まだ何者になるかが決まっていない高校生にとって「必要ない」とは決して言えないという点。それともう1つは、三角関数を通して学べる相似や周期性の応用範囲は驚くほど大きく、それは進路に関わらず身につけておくべきだという点です。*1
ただ、多くの方がこの知事さんの発言に怒りや驚きを禁じ得なかったのは、「女子に」というフレーズが付いていたから(女性蔑視に繋がるニュアンスを多分に含んでいるから)ではないのかな、と思う節も実はあります。もしこれが単に「高校生に三角関数は必要ない」という発言であれば、「うんうん。三角関数なんて僕も使ったことないよ。そもそも数学なんて苦労して勉強させられた割には全然役に立ってないもの」と密かに同調する大人は少なくなかったかもしれません。
本書は、そんな方にこそ読んでいただきたいと思います。
「数学的」ロジカルシンキングについて
最近はどこの書店でも、ビジネス書の一角にロジカルシンキング関連の書籍が並ぶようになりました。今や「ロジカルシンキング」という言葉を聞いたことのない人はほとんどいないのではないでしょうか?
「ロジカルシンキング」という言葉がこれほど広く知られるようになったのは、マッキンゼーをはじめ主にコンサルティング会社で磨かれたコミュニケーション力を高めるためのスキルが今世紀の初め頃から特に注目されるようになったからです。ここでいう「ロジカルシンキング」は、理解のしやすさと説得力を高めて、伝えたいことをできるだけ分かりやすく説明する方法のことを指します。
一方、ロジカルシンキング(logical thinking)を直訳すれば「論理的思考」となります。論理的思考というのは「A=BかつB=Cならば、A=C」に代表されるような、立場・主義・主張の如何を問わずどのような人間にとっても正しいことが明白な結論を導く考え方のことです。論理というブロックを積み上げることで真理を探求してきた哲学や数学の歴史とは論理的思考の歴史であると言っても過言ではありません。この意味における「ロジカルシンキング」は、ヒラメキや勘では太刀打ちできない問題を解決しようとするときに大きな力を発揮します。
本書のタイトルは「ロジカルシンキング」の前に「数学的」と付いています。それは私が、上の2つの力を磨くのに数学ほど適した学問はない、と考えているからです!……なんて書くととても難しそうに思われるかもしれませんが、本書には難解な数学は全く登場しません。使うのは中学までの数学のごくごく基本的な部分だけです。数学の部分がわからない、ということはまずないと思います。
全体に、ドラえもんや婚活パーティーやワインの価格など身近な例を多数取り上げ、読者の皆さんがロジカルシンキングとそれに繋がる数学のイメージを膨らませやすいようにでき得る限り配慮したつもりです。
数学を苦手にしている人が(もちろん得意な人も)本書を通して数学から学ぶべきものをイメージしてもらえるようになれば、筆者としてこれ以上ない喜びです。
本書の内容
本書は
・第1章 コミュニケーションのための数学的ロジカルシンキング
・第2章 問題解決のための数学的ロジカルシンキング
・第3章 ツールとしての数学的ロジカルシンキング
の3章立てになっています。
第1章はロジカルシンキングにおける「コミュニケーション力」を磨いてもらうことが目的です。この章にはロジカルシンキングではお馴染みの「MECEな分類」、伝えたい内容に即した「グラフの使い方」、情報を増やすための「マトリックス」、論理的であるための最初の一歩である「定義の確認」、そして説得力を増すための「数字の使い方」などが書かれています。
第2章ではロジカルシンキングにおけるもう一つの側面「問題解決能力」を磨いていきます。この章には、因果関係の理解を助けてくれる「関数」、推論の基本である「演繹法と帰納法」、「ならば(⇒)」の正しい使い方を学ぶ「必要条件と十分条件」、そして正攻法では糸口が見つからない問題を攻略する2つの視点、すなわち逆の視点の「余事象」と否定の視点の「対偶と背理法」などが登場します。
最後の第3章では、ロジカルシンキングのためのツールとして使える数学を紹介します。MicrosoftやGoogleの入社試験で有名になった「フェルミ推定」、交渉における最適解を教える「ゲーム理論」、画期的なモデル化の一例として「グラフ理論」、そして現代人には欠かせない素養である統計から、データのばらつきを調べる「標準偏差」と相関関係を捉え未知なる値を予想する「回帰分析」を取り上げました。この章では特に理論的背景よりも、ツールとしての使い方に焦点をあてています(統計についての2つの節はExcelを使った計算方法がメインです)。
初歩からわかる数学的ロジカルシンキング (SCC Books 385)
- 作者: 永野裕之
- 出版社/メーカー: エスシーシー
- 発売日: 2015/09/07
- メディア: 単行本
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目次
序 章 数学的ロジカルシンキングのススメ
ロジカルシンキングとは
なぜロジカルである必要があるのか?
「数学的」とはどういうことか?
本書の使い方
第1章 コミュニケーションのための数学的ロジカルシンキング
1.1 思考を整理し困難を分割する
【MECEな分類とその効能】
1.2 目的別にグラフを使い分ける
【4種類のグラフとその使い方】
1.3 掛け算で情報を増やす
【マトリックス】
1.4 誤解をふせぐ
【定義の確認】
1.5 プレゼン力をあげる
【数字の上手な使い方】
練習問題
練習問題の解答・解説
第2章 問題解決のための数学的ロジカルシンキング
2.1 信用できる自動販売機を見極める
【関数と因果関係】
2.2 ドラえもんが生物として認められない理由
【演繹法と帰納法】
2.3 怪しげな壺を買わなくてもすむ方法
【必要条件と十分条件】
2.4 心理学テストに学ぶ「逆を考える視点」
【余事象】
2.5 名言とアリバイに学ぶ「否定の視点」
【対偶と背理法】
練習問題
練習問題の解答・解説
第3章 ツールとしての数学的ロジカルシンキング
3.1 地球外文明の数を見積もる
【フェルミ推定】
3.2 義理チョコは必要か?
【ゲーム理論】
3.3 婚活パーティーをモデル化する
【グラフ理論】
3.4 リーマン・ショックは「極めて異例」と言えるか?
【標準偏差】
3.5 ワイン方程式
【相関関係と回帰分析】
練習問題
練習問題の解答・解説
おわりに
ロジカルであるために一番大切なこと ~論理力は心で育つ~
参考文献
出版社サイト
3章の一部が立ち読みできます!
【SCC Books】初歩からわかる数学的ロジカルシンキング
*1:参考サイト: