来たる七夕イブと七夕に、以下のオペラの指揮をします(公演の概要はコチラ)。
歌劇団テオ・ドーロ第3回公演『愛の妙薬』
指揮/永野裕之
演出/舘 亜里沙
管弦楽/歌劇団テオ・ドーロ管弦楽団
合唱/歌劇団テオ・ドーロ合唱団
7月6日(土)18:00開演
ネモリーノ/富澤祥行
アディーナ/室井葉子
ドゥルカマーラ/大坪正幸
ベルコーレ/山之内達也
ジャンネッタ/君島由美子
7月/7日(日)14:00開演
ネモリーノ/松原 陸
アディーナ/衛藤 樹
ドゥルカマーラ/川村貢一郎
ベルコーレ/三輪直樹
ジャンネッタ/福田洋子
会場:和光市文化センター(サンアゼリア)大ホール
友人・知人に公演の案内を送ったところ、「行ってみたい気はするけれど、オペラは観たことないからな〜」とか「オペラって難しいんでしょ?」という声を頂いたので、今度の演目であるドニゼッテイ作曲の『愛の妙薬』を例に、まったくの初心者がオペラを楽しむ方法をまとめました。
この記事を参考にして頂いて、是非お越し下さい!
- 歌劇団テオ・ドーロ第3回公演『愛の妙薬』
- (1)ストーリーを知る。
- (2)音楽を知る
- (3)作曲家を知る
- (4)演出を楽しむ
- (5)字幕付きの公演を選ぶ
- (6)スタッフのことを知る
- (おまけ)指揮者を見る
- 公演のご案内
(1)ストーリーを知る。
オペラは歌と音楽でドラマを表現する総合芸術です。お芝居だけではなかなか体験できないような圧倒的な感情の高まりを体感できることこそ、オペラの醍醐味だと言えるでしょう。
ただし、台詞が歌詞として歌われることもあって、その場でストーリーを把握するのは難しいケースがあります。また、筋を追うことに集中しすぎると、音楽を楽しむ余裕がなくなってしまうかもしれません。
そうならないためにも、事前にあらすじを知っておくことをお薦めします。
たとえば今回の『愛の妙薬』はこんなお話です。
『愛の妙薬』のあらすじ
《第1幕》
1830年代、スペイン・バスク地方のとある村。
村人たちはくつろぎ、美しい地主の娘アディーナは本を読んでいる。純朴な農夫ネモリーノは、アディーナに片想い中。
アディーナが本の中に出てきた惚れ薬「愛の妙薬」の話を始める。そんな魔法の薬があったらいいね!と盛り上がる村人達。
突如、軍曹ベルコーレが現れアディーナに言い寄る。やきもきするネモリーノ。
ベルコーレたちが去ったあと、アディーナと2人きりになったネモリーノは、自分の恋心を告白するも、アディーナは取り合わない。
そこへインチキ薬売りのドゥルカマーラが登場。ネモリーノに、丸1日経ったらモテモテになる「愛の妙薬」だと偽ってただの安いボルドーワインを売りつける。疑うことを知らないネモリーノは全財産をはたいてこれを買ってしまう。
媚薬(ただのワイン)を飲んで強気になった(酔っ払った)ネモリーノは、明日になったら自分に惚れるはずだからと、突如アディーナに無関心を装う。これに怒ったアディーナは、ネモリーノへのあてつけに、ベルコーレとの結婚を決めてしまう。
薬の効果が現れる前に結婚されたら大変と、ネモリーノは必死に気持ちを伝えるが、アディーナはこれを無下に断る。農民たちもネモリーノを冷たくあしらう。
《第2幕》
村の広場では結婚披露宴が賑やかに行われている。
焦るネモリーノは薬の効果を早めるために、ドゥルカマーラからもう1本「愛の妙薬」を買おうとするが金がない。
失意のネモリーノは、ベルコーレに「軍隊に入れば大金が手に入る」とそそのかされて、入隊契約を交わす。
一方、ジャンネッタら村の娘たちは、ネモリーノの伯父が亡くなり、彼が莫大な遺産を受け取ると噂している。現金な村娘たちは急にネモリーノにすり寄り始める。これを見てアディーナは動揺し、そんな自分はネモリーノへの恋心を抱いていると気づく。
さらにアディーナは、ネモリーノが自分と結婚するために、軍隊に入隊する契約までして「愛の妙薬」を手にしたことを知る。
ネモリーノの大きな愛に心を打たれたアディーナは、ベルコーレから入隊契約書を買い戻した上で、ネモリーノに想いを告げ、二人は結ばれる。
そこに一同が登場。村人達は、ドゥルカマーラの薬は本物だと信じ、次々に彼の薬を口にする。
全員が未来への希望を抱く中、ハッピーエンドの幕が閉じる。
《ポイント》
コミカルな展開と美しい音楽
ドニゼッティならではの軽快なメロディと、登場人物たちの滑稽なやり取りが魅力。特に、ネモリーノのアリア「人知れぬ涙」は超有名。
愛の力
お金や地位や、ましてや「愛の妙薬」などではなく、純粋な愛の力が奇跡を起こすという普遍的なテーマ。
人間模様の面白さ
恋愛、嫉妬、金銭欲など、人間が持つ様々な感情がコミカルに描かれている。オペラ「愛の妙薬」は、笑いと感動そして美しい音楽が詰まった、世界的にも非常に人気の高い演目。
《参考》2013年に新国立劇場で上演された「愛の妙薬」のダイジェスト映像
(2)音楽を知る
どんなに素晴らしい音楽であっても、2時間を超える上演の間中ずっと知らない音楽を聴くのは疲れます。初めて触れる情報量が多すぎて、心でも頭でも処理できなくなるでしょう。そうなると、味わうどころか「早く終わってくれないかな〜」なんて思ってしまうかもしれません。
でも、曲をあらかじめ知っておけば、「あ、聞いたことある!」となって、耳になじんだ曲がすっと心に入ってきます。そんなときは上演時間も短く感じます。
ちなみに『愛の妙薬』にはこんな曲があります↓。
(YouTubeで色々なプロダクションの映像を探しました)
1幕(序盤)「なんと美しく可愛い人」
ネモリーノがアディーナへの想いを切々と歌います。
1幕(序盤)「無情なイゾルデ」
アディーナが読んでいた本(トリスタンとイゾルデ)に出てきた「愛の妙薬」について村人達に語ります。
1幕(序盤)「美しいパリスが一番の美女に」
アディーナを見初めたベルコーレが、彼女に花束を渡します。
1幕(序盤)「親切なそよ風に聞いてごらん」
ネモリーノがアディーナに告白しますが、アディーナは取り合いません。
1幕(中盤)「村の皆様お聞きください」
インチキ薬売りのドゥルカマーラが村人達に自分の薬をセールスします。
1幕(終盤)「うれしがっていろ薄情女め」
愛の妙薬(ただのワイン)を飲んで酔っ払ったネモリーノが、アディーナに無関心を装います。
1幕(終盤)「アディーナ、僕を信じておくれ」
アディーナが急にベルコーレと結婚することになって慌てたネモリーノが「今日結婚してしまうと明日には君が苦しむことになる」と訴えます。
2幕(序盤)「私は金持ち、あんたは美人」
ドゥルカマーラとアディーナが結婚披露宴を盛り上げるために歌います。
2幕(中盤)「20スクード!」
もう1本「愛の妙薬」を買いたいがお金のないネモリーノに、ベルコーレが軍隊に入れば大金(20スクード)が貰えるともちかけます。
2幕(中盤)「何という愛情。なのに無慈悲な私」
アディーナは、ネモリーノが自分と結婚するために、軍隊に入る契約を交わしたことを知って、彼の愛の大きさを知ります。
2幕(終盤)「人知れぬ涙」
ネモリーノがアディーナの愛を確信し「ほんのひとときでも、僕のため息と彼女のため息が一緒になれば、他には何もいらない」と歌います。
数あるオペラアリアの中でもベスト10には入る有名な曲です。この美しいメロディーを聴いたことのある人は多いでしょう。
2幕(終盤)「さあ、私のためあなたは自由よ」
アディーナが、ベルコーレから買い戻した入隊契約書をネモリーノに渡し、自分の想いを告白します。
《ポイント》
ドニゼッティの音楽は素直で奇をてらったようなところがありません。シンプルかつ効果的なハーモニーの上に、親しみやすい旋律が溢れてきます。
指揮者としてはどの曲も大好きなのですが、あえて言うなら1幕フィナーレでソリストの4重唱に合唱が加わって壮大な音楽を作るところと、2幕の終盤でアディーナとネモリーノの愛が成就するところの音楽は、振っていていつも胸が熱くなります。
(3)作曲家を知る
作曲家がどんな人で、どんな風に作品を作ったかを知ると、楽しみ方に深みが出てくるだけでなく、他の作品を楽しむ緒にもなるでしょう。
たとえば、『愛の妙薬』を作ったドニゼッテイはこんな人です。
ガエターノ・ドニゼッティ(1797-1848)は、イタリアの作曲家で、年齢的にはシューベルト(1797-1828)と同い年、ヴェルディ(1813-1901)よりは16歳歳上です。
ドニゼッティは、音楽とは何のゆかりもない貧しい家庭に生まれましたが、地元の慈善音楽学校で才能を見いだされ、17歳のときに歌手としてデビューしています。その後、作曲の才能を発揮し、20代のうちにオペラ作曲家として頭角を表すようになりました。
ドニゼッティは、メロディーの美しさと劇的な表現力で、喜劇的なオペラ(オペラ・ブッファ)と悲劇的なオペラ(オペラ・セリア)の両方で成功を収めた希有な作曲家です。それだけ音楽の引き出しが多いということでしょう(喜劇も悲劇もどちらも得意というのは珍しい)。
『愛の妙薬』は典型的なオペラ・ブッファ(喜劇的)です。登場人物の性格や感情が、軽快でメロディアスな音楽で巧みに表現され、観客を楽しませてくれます。
ロッシーニ(1792-1868『セビリアの理髪師』、「ウィリアム・テル」など)やベッリーニ(1801-1835『夢遊病の女』、『ノルマ』など)等とともに、19世紀前半のイタリアを代表する作曲家として人気を博したロッシーニは、伝説的な早書きの作曲家としても知られています(51歳で亡くなるまでの間に生涯で70以上のオペラを作曲しました)。
たとえば『愛の妙薬』のオーケストラスコアは600ページを超えますが、わずか数週間(一説によると2週間)で書き上げたそうですから、信じられません。
(4)演出を楽しむ
オペラの演出は、同じ作品でも全く違う世界観を創り出す、オペラ鑑賞の醍醐味の一つです。演出によって作品の解釈が変わり、新しい発見や感動が得られます。
たとえば舞台装置や照明、衣装は、演出家の世界観を表現する重要な要素です。これらは、時代設定や場所、登場人物の心情を反映していることが多いので、じっくり観察してみましょう。
ちなみに演出のタイプには大別して次の3種類があります。
伝統的な演出:作品の時代背景や作曲家の意図を尊重した、オーソドックスな演出。
現代的な演出:現代の社会問題や価値観を取り入れた、斬新な演出。
実験的な演出:従来のオペラの概念にとらわれない、前衛的な演出。
上に紹介したYouTubeの映像を見ても、実に色々な設定がありそうなことはお分かりいただけるでしょう。もしかしたら最初は「伝統的な演出」から入るのがいいかもしれませんが、それぞれに魅力があるので、ぜひ色々と楽しんでみてください。
(5)字幕付きの公演を選ぶ
オペラは、イタリア語やドイツ語など、外国語で歌われることが多いです。日本語の字幕付き公演を選べば、言葉の壁を気にせず内容を理解できるので安心です。
ちなみに、今回歌劇団テオ・ドーロで上演される「愛の妙薬」も、字幕付き公演です♪
(6)スタッフのことを知る
オペラ公演は、舞台上で歌い演じる歌手、伴奏するオーケストラ、指揮者だけでなく、様々な役割を担うスタッフによって支えられています。ここでは、主なスタッフとその役割をご紹介します。
《音楽スタッフ》
副指揮者:本番の指揮者が来れないときの稽古で指揮をしたり、本番中、指揮者が見えない位置で歌う歌手に向けて舞台袖などから影棒(ペンライト)を振ります。
コレペティトゥア: 歌手とのリハーサルでピアノ伴奏を担当し、音楽的なアドバイスも行います。
合唱指揮者:合唱団の指導と練習を担当します。
プロンプター:本番中、歌手に向けて、歌詞やキューを出します。
《舞台スタッフ》
舞台監督:舞台稽古から本番まで、舞台上の進行を管理します。
照明デザイナー:照明プランを作成し、シーンに合わせた照明効果を生み出します。
舞台美術デザイナー:舞台装置や小道具のデザインを担当します。
衣装デザイナー:登場人物の衣装のデザインを担当します。
大道具・小道具スタッフ:舞台装置や小道具の制作、設置、操作を行います。
字幕スタッフ:日本語訳にもとづく字幕の製作と本番中の字幕操作を行います。
照明スタッフ:照明機材の設置、操作を行います。
音響スタッフ:音響効果の制作、調整を行います。
舞台スタッフ:舞台転換や装置の操作を行います。
《その他》
制作スタッフ:公演全体の企画、予算管理、宣伝、チケット販売などを行います。
ヘアメイク:歌手のヘアメイクを担当します。
衣装スタッフ:衣装の着付けや管理を行います。
アマチュアの場合は、出演者が上記のスタッフを兼ねることも珍しくありません。キャストが製作を担ったり、合唱の人がチラシのデザインをしたりします。
公演を見ながら、こうしたスタッフの働きぶりにも思いを馳せると、舞台から放たれるエネルギーが何倍にも感じられて、より感動が深まることでしょう。
(おまけ)指揮者を見る
オペラを観に行くと、まずは舞台上の歌手に目が行くでしょう。
もちろんそれは正しい見方ですが、オペラの指揮には、ふつうのコンサートの指揮にはない面白さ、難しさがあるので、奮闘する指揮者の姿をチラッと見るのも、オペラの公演を見る楽しみだと思います。ふつうオペラ公演を記録した映像では、指揮者はほとんど映りませんので、本番中の指揮者の様子が見られるのは、実際にその場にいる観客だけです。
オペラには、テンポの大きく変わる所がたくさんあります。ドラマの進行に合わせて楽譜に書かれたテンポ変化に加え、伝統的なルバート(感情の起伏に応じて、楽曲の速度を自由に加減すること)もあり、その都度指揮者は全体がバラバラにならないように的確にテンポを示さなくてはなりません。
またオペラには、筋を進行させるために、ほとんど語りのように歌われる「レチタティーヴォ」と呼ばれる部分があります。レチタティーヴォの多くには、ピアノ等の鍵盤楽器のうすい伴奏が付くのですが、作品によってはオーケストラが、合いの手の和音を入れることもあり(レチタティーヴォ・アッコンパニャートと言います)、そういう所は指揮者として緊張するところです(語りは一定のテンポで進むわけではないので、合わせるのが難しい)。
さらに、オーケストラだけでなく、暗譜で歌う歌手にも都度アインザッツ(出だしの合図)を送るという重要な役目もあります。
コンサートでもオペラでも指揮者にとって一番重要なのは、全体を貫く音楽的な流れを作ることであるのは言うまでもありませんが、オペラの指揮にはコンサートの指揮にはない独特の技術が必要なのです。
公演のご案内
繰り返しますが、今年の7月6日と7日(七夕イブと七夕)に、歌劇団テオドーロという団体で指揮をさせていただきます。演目は本記事で詳しくご紹介したドニゼッティの『愛の妙薬』です。
アマチュアではありますが、オーケストラ付きのフルスペックのオペラ公演がこのお値段(2800円)で見られるのはお得だと思います。
オペラの入門には良い機会ではないでしょうか?
ご興味のある方はお気軽にお越しください。