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【数学塾直伝】今度こそΣ(シグマ)記号を攻略しよう!(公式の図解と証明)[2020年5月8日更新]

たとえば、ちょっと本格的に統計を学ぼうとすると、Σ(シグマ)記号を避けて通ることはできません。数式が少なめの入門書を読み終えて、さあ、本腰を入れて勉強しよう!と思った矢先、Σ記号のせいで心折れてしまった人は少なくないはずです。それくらい、Σ記号は、数学が苦手な方からは敬遠されています。でも、慣れるとこれほど便利な記号はありません。この機会に是非攻略してしまいましょう!

記事の最後には「loom」を使った動画解説のリンクもありますので、よろしければぜひご覧ください。

Σの意味

Σ記号の意味を掴むためにまずは具体例から入りましょう。例えば

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{3} 2k \
\end{align}

2kk に 1 から 3 までの数を順々に代入して足したもの」という意味になります。
式でかけば

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{3} 2k &= 2 \cdot \color{red}{1}+2 \cdot \color{red}{2}+2 \cdot \color{red}{3} \\
&= 2+4+6 \\
&= 12
\end{align}

です。同様に

\displaystyle \sum_{k=2}^{5} k^2

k^2k に 2 から 5 までの数を順々に代入して足したもの」という意味で

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=2}^{5} k^2 &= \color{red}{2}^2+ \color{red}{3}^2+ \color{red}{4}^2+ \color{red}{5}^2 \\
&= 4+9+16+25 \\
&= 54
\end{align}

と計算されます。

数列の記号を使ってΣの意味を一般化しておきましょう。

f:id:naganomath:20180425152643p:plain

Σは英語で和を表す“Sum”の頭文字Sに相当するギリシャ文字の大文字です。
また、「k」の代わりに別の文字を使っても構いません。「a_1+a_2+a_3+⋯+a_n」を表すのに

\displaystyle \sum_{i=1}^{n} a_i=a_1+a_2+a_3+⋯+a_n

\displaystyle \sum_{j=1}^{n} a_j=a_1+a_2+a_3+⋯+a_n

のように書くこともできます*1
さらに初項 a_1 からの和でなくても、例えば「a_3+a_4+a_5+⋯+a_n」のような数列の途中から始まる和も

\begin{align}
\color{red}{ \displaystyle \sum_{k=3}^{n} a_k=a_3+a_4+a_5+⋯+a_n}
\end{align}

と表せます。

Σの計算公式

Σの計算公式の数式による証明は本記事の末尾にまとめますが、先に、直観的とは言い難い(ii)自然数*2の和、(iii)平方数*3の和(iv)立方数*4の和について、図解してみたいと思います。

自然数の和のΣを図解

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k &= 1+2+3+⋯+n \\
&= \frac{n(n+1)}{2}\
\end{align}

について。

下の図のようにブロックを1個、2個、3個、4個、5個と並べたものを用意します。

このブロックの総数 \displaystyle 1+2+3+4+5= \sum_{k=1}^{5} k 個ですね。

これと同じものをもうひとつ用意して、下の図のように組み合わせると、

となりますから、

\begin{align}
\displaystyle 2 \times \sum_{k=1}^{5} k=5 \times 6 \Rightarrow \sum_{k=1}^{5} k= \frac{5 \times 6}{2}=15 \
\end{align}

です。

同じように考えて、公式を導きます。

 

平方数の和のΣを図解

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k^2 &= 1^2+2^2+3^2+⋯+n^2 \\
&= \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}\
\end{align}

について。

1kgの球を1個、2kgの球を2個、3kgの球を3個、下の図のように三角形状に並べます。次に、同じ6個の球を並べ方を変えて3段に重ねます。

 

 

一段の重さは \displaystyle \sum_{k=1}^{3} k^2 [kg]と表せるので出来上がった三段(計18個)の球の重さの合計は\displaystyle 3 \times \sum_{k=1}^{3} k^2 [kg] です。

 

 

同じように考えて、公式を導きます。

 

 

立方数の和のΣを図解

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k^3 &= 1^3+2^3+3^3+⋯+n^3 \\
&= \left\{ \frac{n(n+1)}{2} \right\}^2 \
\end{align}

について。

下の図のように、一辺の長さが \displaystyle 1+2+3= \sum_{k=1}^{3} k の正方形の面積を考えます。 

実は(上の図のように考えると)、この正方形の面積は 1^3+2^3+3^3 と表せます。

つまり、1^3+2^3+3^3=\displaystyle \sum_{k=1}^{3} k \times \sum_{k=1}^{3} k です。

この考え方を使えば、公式が導けます。

 

ちなみに、上の図の逆L字部分(赤い部分)の面積が  n^3 になることは次のように考えれば、確かめられます。

 

Σの性質(なぜΣ記号は便利なのか?)

Σ記号が便利なのは、これまで a_1+a_2+a_3+⋯+a_nと書いていたものを、\displaystyle \sum_{k=1}^{n} a_k簡明(書き連ねる必要がない)かつ厳密に(…を使わずに)書くことができるという点ももちろんありますが、何より次の分配法則のような性質があるからです。

 

この性質があるからこそ、定数と自然数と平方数と立方数の和の公式さえ用意しておけば、非常に多くの数列の和を求めることができるのです。

(例)

 \displaystyle \sum_{k=1}^{n}(3k^2+k)

 \displaystyle = 3 \sum_{k=1}^{n}k^2+ \sum_{k=1}^{n}k

 \displaystyle =3 \times \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}+ \frac{n(n+1)}{2}

 \displaystyle = \frac{n(n+1)(2n+1)}{2}+ \frac{n(n+1)}{2}

 \displaystyle = \frac{n(n+1)}{2} (2n+1+1)

 \displaystyle = \frac{n(n+1)}{2} (2n+2)

 \displaystyle = n(n+1)^2

                                                                                                                                      

Σの計算公式の証明

(i)定数の和のΣ

c の後ろに 1^k  が隠れていると考えます。

 

(ii)自然数の和のΣ

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k=1+2+3+⋯+n=S
\end{align}

としましょう。ここで、次のように考えると

 

\begin{align}
\ 2S=(n+1) \times n=n(n+1)
\end{align}

となりますね。両辺を2で割れば

\begin{align}
\displaystyle S= \sum_{k=1}^{n} k= \frac{n(n+1)}{2}\
\end{align}

を得ます。

 

(iii)平方数の和のΣ

ここからは少々厄介です。まず、乗法公式

\begin{align}
\ (a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3
\end{align}

を使って(a=l,b=1として)

\begin{align}
\ (l+1)^3-l^3=3l^2+3l+1
\end{align}

という恒等式(文字にどんな数字を入れても成り立つ式)を作ります。そして、lに1、2、3、…、nを順次代入して、次のように一気に足し合わせます。

 

  

両辺を3で割って

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k^2= \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}\
\end{align}

 

(iv)立方数の和のΣ

方針は上の(iii)と同じです。ただし、今度は

\begin{align}
\ (a+b)^4=a^4+4a^3b+6a^2b^2+4ab^3+b^4
\end{align}

を使います*5これを利用して( a=l,b=1 を代入して)

\begin{align}
\ (l+1)^4-l^4=4l^3+6l^2+4l+1
\end{align}

という恒等式(文字にどんな数字を入れても成り立つ式)を作ります。そして、(iii)と同じように lに1、2、3、…、nを順次代入して、一気に足し合わせます。

 

両辺を4で割って

\begin{align}
\displaystyle \sum_{k=1}^{n} k^3= \left\{ \frac{n(n+1)}{2} \right\}^2 \
\end{align}

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関連書籍

本記事と関連する内容は、下記の拙書でもご覧いただけます。

数学図鑑: やりなおしの高校数学

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ふたたびの高校数学

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動画解説

本記事の内容をクラウド画面録画ツールの「loom」を使って解説しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

今後こそΣ記号を攻略しよう!①(使い方)

今度こそΣ記号を攻略しよう!②(自然数の和の図解等)

今度こそΣ記号を攻略しよう!③(平方数の和の図解)

今度こそΣ記号を攻略しよう!④(立方数の和の図解)

 

*1:integer(整数)の頭文字iの前後のアルファベットを使うことが多いです。

*2:1以上の整数

*3:整数を2乗した数

*4:整数を3乗した数

*5:二項定理やパスカルの三角形を使えば求められます。覚えておく必要はありません。