新型コロナウィルスの感染拡大が本格化してきた頃から、永野数学塾では、それまで教室に通って頂いていた生徒様に対しても、希望される方には双方向のオンラインによる個別指導を始めました。
2月の下旬(一斉休校が決まる前)に、生徒様お一人お一人にご希望を伺ったところ、オンラインへの切り替えを希望される生徒様は全体の3割ほどでした。その後、全国一斉休校が決まり、緊急事態宣言も出されるなど緊張感が高まる中、日に日にオンラインを希望される方が増えてきて、現在は約8割の生徒様がオンラインで受講されています。
実は、永野数学塾(神奈川県にあります)では、これまでにもSkypeを使って、中国の上海や香川県などの遠方の生徒様に対してオンラインで授業や勉強法カウンセリングを行ってきました。
そのため、ある程度の準備はできていたのですが、大半の授業がオンラインに切り替わったこともあり、指導環境をイチから見直すことにしました。
この記事ではその記録と実際にオンラインの授業を受講された生徒様の声、そして永野数学塾のこれからの方針等を書いておきたいと思います。
使用機材等
手元用カメラ
私の場合、指導は手元のノートに書きながら進めるので、顔を映すWebカメラとは別に、手元を映すためのカメラが必要です。
当初は上記のような「書画カメラ」を使っておりましたが、少々画質に不満があったのと、万が一故障した際の代替機として、もう一台、もう少し画質の良い書画カメラを購入することを検討しました。
しかしリモートワークが進む昨今、Web関連機器は軒並み売り切れで、しかも現在のもの以上に画質の良いものは高額だったことから、スマートフォンをWebカメラ化して、スタンドにつけて手元を映すことを考えました。
そこで用意したのは、下記の記事で紹介されている俯瞰撮影スタンドです。 結果、大成功でした。今では手元用カメラとしては「スマートフォン&俯瞰撮影スタンド」をメインに使っています。
スマートフォンをWebカメラ化するためのソフト
スマートフォンをWebカメラ化するためのソフトとして、最初は NewTekのNDI Toolsを使っていました。同一ネットワーク内にPCとスマートフォンがあれば、無線ですぐに繋がりますし、画質も綺麗なことから特に不満はありませんでしたが、その後、この種のソフトではNDIと双璧のIVCamに乗り換えました。理由は、IVCamの方が細かい設定ができるのと、スマートフォンとPCをUSBで有線接続できるため、安心感があるからです。
《参考にした記事》
マイク
マイクは当初、Webカメラに内蔵されているマイクや、「AirPods Pro」などを使っていました。しかしあるとき、Zoomの録画機能を使って自分の授業を録画してみたところ、あまりに音が酷いので愕然としました。
そこで、急遽用意したのが下記のコンデンサーマイクです。導入後は予想以上に良い音になりました。このマイクを使って録画した授業と以前のものとを聴き比べるとまさに雲泥の差です。これはパソコンにUSBで直に接続できる上に、値段の割には作りもしっかりしていてコストパフォーマンスが良いので気に入っています。
ある記事でWeb会議ツールを使うなら「マイクは身だしなみだ」と書いてありましたが、言い得て妙だと思います。授業をお届けするにあたり、生徒様にとっては画質と同じくらい(いや、もしかしたらそれ以上に)声がどう聞こえるという音質は大切です。
《改良》iPad Pro(12.9インチ)+Goodnotes 5+Reflector 3
[2020/5/30追記]
その後、手元のノートは物理的にカメラで撮るよりも
という方法でお見せした方がベターであることがわかりました。この方法ならば手元の明るさを確保する必要もありませんし、ノートの角度を画面上で水平に保つ必要もありません。何より、スタンドを設置し、iPhoneをセットし、PCとコードで繋いで…といった煩わしさが無いのはありがたいです。また生徒様の方にも、常にくっきり鮮やかなノートをお届けできます。
ノートアプリとして大定番なので、ご存じの方も多いと思いますが、とにかく、Goodnotes 5が素晴らしいです。手書き文字の色や太さを自由に変えられるだけでなく、テキストで打ち込んだり、画像を挿入したりもできますし、直線や円を綺麗に描いてくれる機能もあります。グラフを正確に書きたいとときに、あるページだけ方眼紙にするといったことも簡単です。
何より、生徒様別にノートを作っておけば、授業の記録を個別にずっと保存しておけるというのが重宝します。しかもGoodnotes 5は、手書きの文字であっても検索の対象になるので後から「あの話はいつの授業で話したっけ?」ということを疑問に思ったとしてもすぐに解決します。
iPadの画面をPC上に映すミラーリングソフトにも色々と種類はありますが、今のところReflector 3 はとても安定しています。
(↓授業ノートの例)
授業用ツール
授業用ツール(双方向のWeb会議用ツール)も、SkypeからZoomに乗り換えることにしました。Skypeより通信が安定しているように感じられたことと、資料等を表示する際の画面共有のしやすさ、それに特定の生徒様用の定期スケジュールの作りやすさなどに魅力を感じたからです。また、生徒様のご家庭でも、Zoomは既に導入済みであることも多いため、スムーズに授業が始められます。
ただ、Zoomに関しては、乗り換えを決めたのと同じ頃に、セキュリティ問題を指摘する声があがるようになってしまいました。そこで、改めて検討しましたが、
・授業用URLを公開しない
・授業にパスワードを設定する。
・待機室を利用する(ホストが許可しない限り参加できない)
・生徒様が入室したら「ロック」する
などの基本を守れば大丈夫だろうと判断し、結局今もZoomを利用しています。
Zoom側もセキュリティの強化には全力をあげてくれるようです(サーバーの設置国をユーザーが選べるようにもなりました)。実際、Mozillaが行った最新の分析では、Zoomは全15種類のWeb会議ツールの中で、セキュリティ面において最高ランクの得点を獲得しています。
オリジナルプリントの配信ソフト
永野数学塾には、全国の大学の入試問題の過去問(約20年分)と100冊を超える問題集・参考書から幅ひろく集めた練習問題のデータベースがあります。
言うまでもなく、数学、物理、化学の学力アップに問題演習は必須です。しかし、学力と合わない演習をいくらやっても、効果はほとんど望めません。勉強を効率化し、努力をムダにしないためにも「ちょうど良いレベルの良問」に取り組むことがとても大切なのです。
そこで、永野数学塾では上記のデータベースを利用して、生徒様お一人お一人に合わせたオリジナルプリントを作成してお渡ししています。このプリントを、オンライン授業の際は、数研出版さんの「 Studyaid D.B. ビューア 」という無料のソフトを使って送信します。
[画像出典:数研出版]
こちらのソフトを使えばIDをチャット等で伝えるだけで、すぐに遠隔地の生徒様にプリントを配信できるので非常に便利です。生徒様からもご好評を頂いています。
生徒様の声
教室での授業と同じだった!むしろより集中できるかも
これまでオンラインには抵抗があったけど、やってみたらとても良かった
先生のノートがわかりやすくて、感激しました
通常に戻った後も、このままオンラインの授業を続けてください
それまで教室に来ていただいていた生徒様が、オンラインによる授業を受け入れてくれるかどうか、不安もありました。しかし、実際に始めてみると、皆様思った以上の効果を感じてくださっているようです。私としてもほっと安堵しているところです。
また、ご自宅でのプリントアウトを希望される生徒様には、Dropboxで生徒様専用のフォルダを共有し、上記プリントをPDFにしたものをお送りしています。
オンライン個別指導のメリットとデメリット
大半の生徒様がオンラインに切り替わってから、約2ヶ月が経ちました。ここで一度、これまでに感じたオンライン個別指導のメリットとデメリットを記録しておきたいと思います。
- 感染のリスクがない
- 集中力が高まる
- 生徒様の表情が読み取りやすい
- 資料の提示などがスムーズ
- 生徒様にとって通塾のご負担がない
- 地域の枠を飛び越えられる
まず、メリットについて。
言うまでもなく、感染のリスクがないというのは生徒様にとりましても私にとりましても精神衛生上大変大きな利点です。もちろん、対面授業の際には、手洗い・空気清浄機・アルコール消毒・マスクの着用・こまめな換気など感染防止対策は徹底して行っております。でも、新型コロナウイルスの場合、感染をしてしまった方の多くは、「とても気をつけていた。どこで罹ったかわからない」と仰っているようです。潜伏期間が約2週間と長く、無症状でも人にうつしてしまう危険性があることも、このウイルスの怖いところです。いずれにしても、対面授業において感染リスクをゼロにすることは大変難しいと感じております。
また、生徒様にとりまして通塾のご負担がないというのもメリットだと思います。神奈川県の大和市にあります永野数学塾には、近隣の方だけでなく、東京都内や茨木県や栃木県などからお通いの生徒様もいらっしゃいます。大変有り難いことではあるのですが、通塾のために多くの時間を費やしていただくことを申し訳なく思う気持ちもありました。
それに対しオンライン授業は、どこにお住まいであっても授業の時間だけの拘束となりますので、生徒様にとりまして時間や労力の節約になります。もちろん、私にとりましても、これまで以上に地域の枠を飛び越えて授業をお届けできることで、新しい出会いがあるのではないかと期待しております。
授業の中身についても、オンライン指導にはメリットを感じています。
まず、画面を通してのマンツーマンは、没入感があり、私も生徒様も集中力がより高まるように感じております。また、正面のカメラが捉えた表情を見ることで、隣に座っているときよりも生徒様の表情が読み取りやすく、理解の度合いを推し量りやすいというのも新たな発見でした。特にアフターコロナの昨今は、対面する場合はマスク着用が必須のため、生徒様の表情がわかりづらいのですが、オンラインであれば、そういうこともありません。
さらに、Zoomの画面共有機能を使うことで、教室では紹介しづらかったこのBlogや動くプレゼンテーションツール、パワーポイントで作ったスライド等、様々な資料の提示がスムーズにできるというのも、大変機能的で気に入っています。
- 「対面していないからこその言葉の伝わり方」に一層の注意が必要
- ネット環境の個人差
- 集中力が高まるからこその疲れやすさ
次にデメリットです。
生徒様が怠けてしまったり、勉強を甘く考えてしまったりしていることがわかったときには、少々厳しく指導することもあります。そうしたときに、画面を通してだと、私の言葉が実際以上にきつく響いてしまうことがありそうだと感じました。
もちろん、対面の授業であってもどのような言葉を使うかについては細心の注意を払っているつもりですが、オンラインの場合は対面していないからこその言葉の伝わり方にも十分気をつけていく必要があると感じています。
また、生徒様のお宅のネット環境には個人差があることにも注意しないといけません。インターネットの速度や機器の性能によって、画面のフリーズや音の途切れが生じてしまうこともありました。そういうときは、いっとき音声だけの通信にしていただくことで改善することもありますが、抜本的な解決にはなりません。こうしたことは今後の課題だと思っております。
それから、これは「集中力が高まる」ことと表裏一体かもしれませんが、集中力が高まるからこそ、教室での対面授業より疲れやすいかもしれません。この点を踏まえて、永野数学塾のオンライン個別指導コースでは、1コマを対面授業より短く60分に設定しています(教室では1コマ90分)。
授業風景等
↓ のように教育用プレゼンテーションツールを「共有」して生徒様に見ていただくこともあります。
永野数学塾の今後について
先日政府の専門家会議から、緊急事態宣言が解かれたとしても「新しい生活様式」を実践するようにとの提言がありました。
その中には(できるだけ2m以上の)ソーシャルディスタンスを確保することの必要性が盛り込まれておりましたが、私の塾における対面授業では、生徒様のすぐ隣に座って指導するスタイルのため、これを実践することは大変難しいと考えております。
今後いつまた感染が拡大し、再び休校や外出自粛の指示が出るかもわかりません。そうした懸念がある中、継続的かつ日常的な学びの習慣を壊さないためにも、また前述のようなメリットも感じていることから、永野数学塾では今後、オンラインによる指導を基本にさせていただきたいと考えております。
これまで、多くの生徒様の授業をオンラインに切り替えてさせて頂きましたが、私としましては、当初想定していた以上の手応えを感じております(もちろん、生徒様にとって、なにか不都合な点がないかは随時フィードバックをいただけるように生徒様や保護者の皆様との連絡は密に取っていくつもりです)。
12年間の対面授業で得たノウハウ、家庭教師時代から合わせると四半世紀、1000人を超える個別指導の経験を活かして、オンライン指導においてもこれまで以上の授業が提供できるよう精進してまいります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。