7/30に『 文系でもわかるAI時代の数学 』(祥伝社)が出ます。
出版社の内容紹介
以下は出版社がつけてくれた内容紹介です。
政府が掲げる「Society 5.0」では、人とAIが共存する社会が謳われています。 そんな数理資本主義ともいわれる時代に、人とAIの共通言語となるのが「数学」。
本書は、個別指導塾で数学の面白さを伝えてきた著者が、AI時代に必要な数学の真髄を具体的かつ易しく解説したもの。
取り上げるのは、AIの仕組みを理解するうえで欠かせない「統計」「微積分」「線形代数」「トポロジー」の4分野。 難解な数式を解く必要はなく、数学者のエピソードや身近な例で解説されたAI数学の概念を知るだけで、新しい時代を生きる知識が得られます。
これまで数学を敬遠してきた文系ビジネスパーソン必読の書です!
どういう本か
本書は、文系社会人がAI時代を生き抜くために必要な数学について、イロハのイを書いた本です。
以下、本書の「はじめに」と「おわりに」を再編集して、どのような本なのかを紹介させていただきます。
AIは人間の仕事を奪う?
蒸気機関の発明がもたらした第一次産業革命、電気の登場による第二次産業革命、コンピュータの普及による第三次産業革命に続く「第四次産業革命」が、今まさに現在進行中であることをご存知でしょうか?
実際、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)等を用いた技術革新が日々さまざまな場面にイノベーションを起こし、これらがもたらす画期的な製品やサービスによって、かつてない勢いで新しい市場が開拓されています。
特に「AI」はバズワードになって久しいです。試しに、日本経済新聞オンラインのキーワード検索で「AI」を検索してみると、たった1日分の記事の中にAIについて書かれたものが8個もあります(2022年7月22日・筆者調べ)。AIはもはや単なるブームではなく、時代を先に進めるような駆動力にまで成長しました。
ではこの「AI時代」を生き抜くために、どうして数学の教養が必要なのでしょうか?
AIが急速にその活躍領域を広げてきた数年前から「AIは人間の仕事を奪う」と危惧する声があがるようになりました。
確かに、大量のデータを元に推論することにかけては、人はAIに勝つことはできません。 たとえば、AIは契約書を作成する際、既存の契約書との差異を教えてくれたり、条文に隠れたリスクを検知してくれたりします。今までは高額な報酬を支払って弁護士にお願いしていたような業務を肩代わりしてくれるのです。
また最近は、トラックなどに荷物を効率よく綺麗に積み込む順番をアドヴァイスしてくるAIも登場しています。積載現場でベテラン作業員の経験に頼る必要はなくなりました。
他にも、ブルーカラーでは受付係やデータ入力、郵便配達などが、ホワイトカラーでは会計、経理、薬剤師、一般事務などの職務はAIに代替されやすいと言われています。
AIにも苦手はある
しかし、AIにも苦手な分野があります。それは、新しいことを創造したり、データのない未知のものを分析したりすることは不得意です。
たとえば、企業ロゴや広告のアイディアをAIは大量に生成することができます。また、それぞれがもたらす効果を過去の事例をもとに推論することもできるでしょう。でも、これまでにない新しい分野に挑戦する企業やサービスであればあるほど、過去の事例はあくまで参考に過ぎず、最後のチョイスは人間に委ねられます。
AIは膨大なデータを分析することで、ロゴや広告と売上げの間に相関関係があるかどうかは判断してくれます。しかし、その相関関係が因果関係によるものなのかそうではないのかの判断は人間が行わなくてはなりません。そのためには、相関関係とは何であるかという正しい知識を持つと同時に、何をもって「相関関係がある」と判断したのかというプロセスまでを理解しておく必要があるでしょう。
つい先日、「ついにAIが感情を持った」というニュースが飛び込んできました。多くの研究者は、ドラえもんのような感情を持つAIの登場は、まだずっと遠い未来のことだと言っていますが、人間がAIと共存・共栄していかなくてはいけない時代が来ていることは間違いありません。
AIが得意なことと不得意なことを正しく理解し、お互いを補うような関係を築いていかなくてはならないのです。 AIの強みと弱みを正しく理解し、うまく付き合うための力を「AIリテラシー」と言います。では、どうしたら「AIリテラシー」を身につけることができるでしょうか? もうおわかりですね。そうです。AIが活用し、AIが判断の拠り所にしている数学の素養を持てば良いのです。
本書では、文系の方のために、「AIリテラシー」を身につけるための手ほどきをさせていただきます。
AIリテラシーに必要な数学
具体的には、「統計」、「微分積分」、「線形代数」、「トポロジー」の4分野についての導入部分をできるだけやさしくお話ししていきます。文系の皆さんが「AIリテラシー」を獲得するには、右の4分野についての知識はどうしても欠かせない、と私は思います。以下その理由を簡単に記します。
統計
AIに必要な数学、と聞いて一番に思い浮かべるのは「統計」ではないでしょうか? 言うまでもなくコンピュータが読み込むものはすべて数字です。人の好みとか商品の品質、認知度など、数値にしづらいものもすべて定量化されてデータになります。
統計というのは、そういう数字の羅列の中から意味のある有益な情報を導き出す手法です。AIは、宝の山であるビッグデータから本当に必要な、そして正しい情報を引き出す(これをデータマイニングと言います)ために、絶えず大量の数値に統計的な処理を行っているのです。
微分・積分
AIは、人間の指示を待つことなく、ひとりでどんどん「学習」をします。何を学習するのかと言いますと、自らがはじき出した予想と実際の値がどれくらいずれているかを調べ、その誤差をできるだけ小さくするためには、どの入力値を重要視すべきかを学習するわけです。
一般に、ある関数を微分すれば、その増減がわかるので、関数の最小値や最大値を求めることができます。AIは微分を使うことで、誤差(目的関数とい言います)が最も小さくなる条件を求めているのです。
また、距離や時間のような連続量と呼ばれる数値に関する確率を求めるには、「確率密度関数」と呼ばれる関数のグラフと横軸で挟まれたある区間の面積を求める必要がり、それには積分が使われます。
線形代数
線形代数はベクトルや行列を使って、複数の数値を同時に扱う方法を教えてくれます。ベクトルや行列を使うと、複数の数式がひとつにまとまり、簡略化されるのでプログラムも簡潔になります。これがAI には好都合です。なぜなら膨大なデータを学習させるとき、計算式が簡潔になれば、効率よく大量の知識を学習させることができるからです。AI にとって線形代数は「もっともわかりやすい言葉」であると言ってもいいでしょう。
トポロジー
簡単に言ってしまうと、トポロジーと言うのは、新しい図形の見方です。「やわらかい幾何学」と呼ばれることもあるトポロジーの世界では、図形を、自由に伸びるゴム膜でできているものと考え、引っ張ったり、ぐにゃぐにゃに曲げたりして、コーヒーカップとドーナツのようにまったく違ってみえる図形どうしも「同じ」にしてしまいます。「同じ」を拡大解釈し、図形を抽象化するトポロジーの研究は、AIの画像認識の技術に大きく貢献しています。
また、トポロジーは、ものとものとの「繋がり」も抽象化します。「繋がり」における本質をモデル化するトポロジーの視点は、AIの主戦場の一つであるインターネット、SNS、口コミといったネットワーク全般について多くの知見を与えてくれます。
「Sociery 5.0」世代との共通言語は数学
小学校は2020年度から、中学校は2021年度から、そして高校は2022年度から新しい指導要領によるカリキュラムが始まりました。学習指導要領は約10年ごとに改訂されますが、今回の改訂は「戦後最大」という声が多いです。その改革の根幹にあるのは、第四次産業革命の後に訪れるであろう「Society 5.0」を生き抜く力の育成です。
Society 5.0は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の社会として、私たちが目指す未来社会の姿として2016年に政府によって提唱されました。
Society 4.0の情報社会では、情報が人を助けてはくれますが、集めた情報をもとにした判断、分析、提案、操作は人の手に委ねられます。例えば、カーナビは目的地までの複数の道順を示してはくれますが、どの道で行くのかを選ぶのは人であり、実際に車を運転するのも人です。
これに対し、Society 5.0では人が介在する必要はありません。ビッグデータをAIが解析することによって、さまざまな作業から人を解放してくれます。カーナビを操作しなくても、行き先を口で言うだけで、自動運転で目的地にまで連れていってくれるようになるのです。
Society 5.0が実現すれば、人はより創造的な作業に専念できます。これにより、多様化する価値観や環境の中で、個人に合った本当に必要な価値の創出ができるようになるはずです。
新学習指導要領によってSociety 5.0に適した教養を身につけた言わば「Society 5.0世代」の新社会人たちがまもなく登場します。そう聞くと、これまでとは違う新しい社会の到来に不安を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
でも、大丈夫です。
数学という共通言語さえあれば、新しい時代の新しい人材とも大いに対話ができます。そうなれば、あなたの経験や感性は、個々人のニーズを満たす快適な暮らしを目指す社会の中で、かけがえのない輝きを放つことでしょう。
本書が、あなたの不安を解消し、新しい社会でも通用する共通言語を手に入れるための一助になれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。
イロハの「イ」にこだわりました
本書は、「統計」、「微分積分」、「線形代数」、「トポロジー」といういずれも横綱級の存在感がある数学の各分野を一冊にまとめた非常に欲張りな本です。それだけに、イロハの「イ」から逸脱することがないように気をつけて書きました。
言うまでもなく、数学は積み上げの学問なので、たとえば「線形代数を学びたい!」と思い立っても、本来は、急には難しいものです。でも線形代数を駆使して自らプログラムを組めるようになったり、多変量解析ができるようなったりするレベルを目指すのではなく(もちろんご興味があれば是非そこまで頑張って頂きたいのですが!)、AIがどんな風に線形代数を使っているのかというその雰囲気をお伝えすることなら、これまでの「積み上げ」がなくてもきっと可能だろう、そして「AIリテラシー」を身につけるためならそれで十分お役に立てるだろう、というのが本書の執筆動機です。
韓国には「始まりが半分だ」という諺があります。「何事も始めてみることが大切であり、とにかく始めてしまえばもう半分は終ったようなものだ」という意味ですが、私は本書が読者の皆さんにとっての確かな、そしてワクワクするような「始まり」になることを強く願っています。
目次
第1章 統計
・「2つの統計」について
・確率のイロハ
・条件付き確率
・代表値
・分散と標準偏差
ほか
第2章 微分積分
・関数とは?
・関数の理解はなぜ大切なのか
・関数とグラフ
・関数を調べる
・微分とは?
・積分とは?
ほか
第3章 線形代数
・線形代数とは
・ベクトルと数の違い
・ベクトルの基礎
・ベクトルの内積と外積
・ベクトルの内積
・行列の導入
ほか
第3・5章 トポロジー
・「同じ」とはどういうことか?
・トポロジーの端緒となったオイラーの2つの研究
ほか
サンプルページ
謝辞
本書は、祥伝社の木村圭輔さんにお声がけ頂いたことがきっかけで、実現しました。最初の打ち合わせのとき、木村さんから頂いたオファーは「文系社会人がAI時代を生き抜くために必要な数学について、ブルーバックスの前段階、導入部分にあたる本を書いてください」というものでした。
この言葉は、原稿執筆中にずっと頭にありました。 ブルーバックスと言えば、子供から大人まで楽しめる一般向けの科学書として、確固たる地位を築いている講談社の人気シリーズです。そのわかりやすさには定評があり、私も中高生の頃から何冊も読んできました。
既にかなりかみ砕いて書かれているあのブルーバックスの入り口まで読者を案内する本、というのはハードルがとても高かったのですが、挑戦しがいのあるテーマです。
私なりに色々と試行錯誤を繰り返す中で、原稿執筆が遅々として進まない時期もありました。でも木村さんは嫌な顔ひとつせず(と信じたい)脱稿を待ってくださいました。私にお声がけ頂いたことも合わせて、この場を借りて深く御礼申し上げます。
また縦書きの新書でありながら、図版が非常に多いため、紙面デザインの方のご苦労も多かったことと推察します。その他、この本を世に出すためにご尽力を頂いたすべての方に重ねて御礼申し上げます。