永野裕之のBlog

永野数学塾塾長、永野裕之のBlogです。

【講演】算数が好きになる7つの方法

朝日塾小学校様に伺い、PTA主催の講演会でお話をさせていただきました。学園は、岡山駅からタクシーで20分ほどの、大変風光明媚な場所にあります。

門の前には美しい自然が広がります。

テーマは「算数が好きになる7つの方法」

お客様は高学年の生徒さんと保護者の方で400名様ほどだったようです。時間は60分。時間が短いのでやや欲張りなテーマだったのですが、せっかく岡山まで呼んで頂いたので、できるだけ多くことをお伝えしようと思い、このテーマを選びました。

(1)算数を勉強する理由を知る

算数の力は、四則演算と割合や比などを使いこなす「生活能力」と、将来の数学の力に通じる「未知の問題を解く力」に分けられると考えています。

「生活能力」とは昔で言う「読み書きソロバン」にあたる力です。「今日は3割引きですよ」と言われてどれくらい安いかがわかったり、4人前のレシピで3人分の料理が作れたりする力のことを言います。

「未知の問題を解く力」については、掘り下げてお話ししました。

詳しくは↓の記事をご覧ください。

2021年度から早稲田大学の政治経済学部で数学が必須化されます。私立文系の雄が行う入試改革の影響は大きく、今後は早稲田の他学部や他の私立文系大学でも同様の流れになることは避けられないだろうと言われています。

変化のスピードが増々加速している現代では、昨日までの正解が今日からは不正解ということも珍しくありません。誰かが用意してくれた「答え」が役に立つ時代はとうに終わりました。加えて、私たちのまわりには正しい情報だけでなく、間違った情報も溢れています。常に降りかかってくる未知の問題を、自分の頭で考えて解決していく「数学的思考力」が今ほど必要な時代はかつてないと私は思っています。

しかも、算数を学ぶ理由はこれだけではありません。

算数を学ぶもうひとつの理由として読売新聞の記事をご紹介しました。

今更改めて言うのは恥ずかしいほど、機械学習*1とこれを応用したAI(人工知能)の技術が急速に発展しています。時代ははまさに第四次産業革命の真っ只中です。そうした中、残念ながら、日本はアメリカやドイツの後塵を拝しつつあります。乗り遅れた日本は、AI人材を大量に育成することで巻き返しを図ろうとしていますが、「AI人材」とは結局、微分積分線形代数確率・統計などの数学の基礎力を持った上で、問題を数理モデルに変換するという数学的思考ができる人材です。算数の力がこうした力の基礎の基礎になることは言うまでもありません。

経済産業省が今年の3月に出したレポートの一節も紹介しました。

「第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先へと進むために…

 

(2)暗記をしない

「未知の問題を解く力」を身につけるために、解法や公式の丸暗記は百害あって一理なしです、という話をしました。丸暗記は考えようとする行為を止めてしまうからです。たとえば「速さの三公式」を、上の図とともに「木の下にはげジジイ」などという語呂合わせで覚えているようでは、算数の力は伸びません。

「速さの三公式」のうち、特に間違える子が多いのは、「距離÷時間=速さ」と「距離÷速さ=時間」の2つの割り算です。その理由は、足し算、引き算、掛け算に比べて、割り算には2つの意味があって、イメージが曖昧になりやすいことにあります。

以上の理解をふまえて「距離÷時間=速さ」が等分除なのか包含除なのかを考えます。

一方、「距離÷速さ=時間」のほうはどうでしょうか…?

公式の意味を考えれば、丸暗記では見えないものが、たくさん見えてきます。こうした気付きの一つ一つが「未知の問題解決能力」につながり、数字を判断と予想の根拠とする時代を生き抜く力につながるのです。

それに、何より丸暗記をした公式に数字を当てはめて問題を解いても何も面白いことはありません。しかし、いろいろな気づきの中で、脳みそに汗をかきつつ考えて答えを出せば、自分の力で解いたという満足感と共に算数を学ぶことが楽しくなるのではないでしょうか?

 

(3)言葉の意味を正確に知る

論理的に物事を考えるための基本は、言葉の意味を正確に知ることです。その一例として、東京大学の有名な円周率の入試問題を紹介しました。

円に内接する正十二角形の周囲の長さを計算するのは、小学生にはまだちょっと難しいのですが、中学で習う「三平方の定理」を使えば計算できます。

ちなみに…

 

(4)数に興味を持つ

算数が好きになるために、やはり数そのものに興味を持つことは大切だと思います。特に整数には意外でかつ面白い性質がたくさんあるので、いくつか紹介しました。

まず、次のようなゲームには参加したほうがいいか、参加しないほうがいいかを考えてもらいました。

《ゲームのルール》
(1)サイコロを3回振る
(2)出た目を自由に組み合わせて3桁の数を作る
(3)その3桁の数を2回並べて書く
(4)できあがった6桁の数を7で割る
(5)出た余りがあなたのラッキーナンバー
(6)ラッキーナンバー×1万円が賞金。ただし、参加費は1000円。

続いて「完全数」について。

余談ですが、最初の完全数が6であることは神が6日間で世界を創造した(7日目は休息日:日曜日)ことと関係があると言われています。イングランドへの布教で知られる初代カンタベリー大司教の聖アウグスティヌスも

「6はそれ自体完全な数である。神が万物を6日間で創造したから6が完全なのでなく、むしろ逆が真である」

と言っています。ちなみに28は大人の歯の数(親知らずをのぞく)に一致しています。

最後は「カプレカ数」について

 

(5)解く喜びを味わう

算数は、問題を解くばかりが勉強ではありませんが、問題を解く楽しさを知ることが算数を好きになる近道であることは確かだと思います。

そこで、学校ではあまり習わない「鳩の巣原理」を使って解く問題を一題紹介しました。

鳩の巣原理:一般に、正の整数nに対して、n+1個以上の「対象」をn組に分けるとき、少なくとも1つの組は2個以上の「対象」を含む。

例1)5人以上集まると、同じ血液型の人がいる。
例2)13人以上集まると、誕生月が同じ人がいる。
例3)11人のサッカーチームには、背番号の1の位が同じ人がいる。

岡山市内に髪の毛の本数がまったく同じ人は(ハゲ=0本の人は何人かいるだろうから)多分いるだろう、と思った人はいるかも知れません。でも「多分」ではなく「必ず」いると断定できること、これが鳩の巣原理を使う醍醐味です。存在が保証されることの有り難さ、尊さは数学の勉強が進めば進むほど感じられるようになります。

 

(6)難しい問題に触れる

正直に数えていくのはメンドウそうです。そこで、あり得ない場合(余事象)を考えて全体から引くことにしましょう。2も3も4も4枚ある場合の数から、
「2が4枚の場合」
「2が3枚の場合」
「3が4枚の場合」
を引くことを考えます。

私が尊敬する長岡亮介先生は、

馬が飼い葉桶の干し草を食べるように問題演習をしているようではいけない。ひとつの良問を、あなたたちのお母さんや一流のシェフが心をこめて作った一皿の料理をじっくり味わうようにして解きなさい。そういう姿勢で問題と向き合うことが、エリートとしての誇りを生むのだ。

と仰っていました。

《参考記事》

一題の良問は百題の悪問に勝ります。一筋縄ではいかなさそうな難しい問題(良問)に出会ったときに「お、面白そうだな」と思える感性が育てば、必ず算数が好きになります。

 

(7)歴史を知る

算数を教科書を通して見るだけになってしまうと、単なるお勉強に思えてしまうものですが、分数も少数も割合も平均も人間が必要に迫られて生み出したものです。そこにはその算数が生まれる必然や偶然、すなわちドラマがありました。そうしたドラマを知ることは、算数への興味を俄然盛り上げてくれるはずです。

一例として、ピタゴラスが音程と整数の比の不思議な関係を見つけたときの話を紹介しました。

ピタゴラスとその弟子たちは感動しました。まるで神様に仕掛けられたイタズラを発見したかのような心持ちになったことでしょう。音程の研究を通して、数字を研究することは神の意思を汲み取ることであり、数字の中にこそ神の言葉があるのだと考えるようになったとしても不思議ではありません。

特に整数とその比を神のように崇めるようになったピタゴラスたちは、1~10の数字に意味を付ける「ピタゴラス数秘術」なるものを編み出しました。
数秘術とは、西洋占星術や易学等と並ぶ占術の一つで、ピタゴラス式の他はカバラ式等が有名です。現代の数秘術が定める数の意味は、流派によって違いがありますが、ピタゴラスたちが行った意味付けはおよそ次のとおりです。

ピタゴラス数秘術を使った最も一般的な占い方は、生年月日の数字を全て足し算した結果(2桁の数字になります)の各位の数を足して、最後に出てきた数字の意味を見るという方法です。

例えば、1974年7月18日生まれなら、

1+9+7+4+7+1+8=37
→3+7=10

から「完全・宇宙」ということになります。

数字を直接計算にあてはめることもできます。

2+3=5→「女性+男性=結婚」

2×3=6→「女性×男性=恋愛」

4+5=9→「正義+結婚=理想」

数字に強い人は、たいていひとつひとつの数に「個性」を感じているものです。それだけに「万物は数である」と信じていたピタゴラスたちがこのような意味付けを行ったことはある意味当然の成り行きだったのかもしれません。

 

謝辞

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講演前に校長先生とPTAの方々と記念撮影♪

講演終了後、PTAの方からは(リップサービスの部分もあるかと思いますが)、「素晴らしかったです!子供たちがあんなに前のめりに参加する講演会は初めてです!!」と言っていただき安堵しました。

朝日塾小学校には、全17台のスクールバスで、県外からも多くのお子さんが通われているようです(瀬戸大橋を渡って通学される方もいらっしゃるとか!)。事前の準備段階では、小学生のお子さんにはちょっと難しいかな、という心配もありましたが、話し始めると保護者の方だけでなく、お子さんも本当に熱心に耳を傾けて下さいました。特に灘中の問題やピタゴラス数秘術を紹介したときは、反応がとても良かったです。さすが、岡山県を代表する名門校だなあ、と感じました。

校長先生をはじめ、朝日塾小学校の皆様には細やかなお心遣いで歓待をしていただきましたことを、この場をお借りして改めて御礼申し上げます。

また伺える機会があれば嬉しいです!

*1:明示的にプログラミングをしなくても、コンピューターが経験から学習し、将来予測や意思決定を実現できるようにするテクノロジー