講演のご依頼をお受けします。
小・中・高の同級生が経営する株式会社Tスポットの社員さんに向けて、『大人が数学を学び直すには』というテーマで講演をさせていただきました。
講演で使ったスライドの一部をご紹介します。
料理に喩えるなら、「数学者になる」というのは一流店のコックになるようなものです。このレベルに達するには才能が必要でしょう。対して、「大学入試を突破する」や「仕事や生活に(数学を)活かす」というのは、冷蔵庫の残り物でパッと美味しいものを作ってしまうというレベルです。これは、最初から簡単にできることではないかもしれませんが、素材についての確かな知識を持ち、調理法についてその意味が分かりさえすれば、誰にでも到達できるレベルです。
《参考》
日本数学検定協会の会長やNHK高校講座「数学基礎」の講師も務められた秋山仁先生の著作『数学に恋したくなる話 』の中から「理系大学進学に必要な4つの能力」を紹介しました。
- 自分の靴を揃えて指定されている自分の靴箱にしまえる(1対1対応の概念がわかる)
- 知らない単語の意味を辞書を引いて調べることができる(順序関係を理解できる)
- レシピを見てカレーライスが作れる(手順を整理し、実行&観察ができる)
- 最寄り駅から自宅までの地図が書ける(抽象能力がある)
拙書『ふたたびの高校数学』に収録の「数学マップ」を紹介しました。
大人が数学を学び直す際には、各単元の分野と繋がりと掴んでから始めると見通しがよくなります。また特定の分野だけを学びたい場合も、この「数学マップ」を参考に関連する単元だけをピックアップすれば、効率が上がります。
《参考》
中学や高校では、目先の定期テストや入試にとらわれるあまり、言葉の定義や定理・公式の証明をおろそかにして、問題演習に偏りすぎる傾向があります。これが数学を苦手とする学生を多く生んでしまう最大の原因であると私は思っています。
大人に限らないことかもしれませんが、数学はその歴史と共に学ぶことをお勧めします。今学ぼうとしている概念がどのような経緯で生まれてきたかを知ることは、なんのために学ぶのか、という疑問への答えになります。
2015年のシンガポール・アジア学校数学オリンピック(SASMO:Singapore and Asian Schools Math Olympiad)で出題された問題です。
【1】シェリルの誕生日が5月か6月だとすると、バーナードは日付だけで誕生日を特定できる可能性があります 。(たとえば、シェリルがバーナードに教えた日付が「19日」ならバーナードは日付だけでシェリルの誕生日が5月19日であることを知ってしまいます。)しかしこれは月だけを教えられたアルバートが日付だけを教えられたバーナードに対して「君も知らないよね」と断言していることと矛盾します。よって、アルバートが教えられた月は7月か8月です。アルバートの発言を受けて、このこと(シェリルの誕生日が7月か8月であること)はバーナードも理解します。
【2】次に、もしシェリルの誕生日の日付が14日であるとすると、7月か8月のいずれかであるとわかったとしても誕生日を特定することはできません。これは、バーナードが「今ならわかるよ。」と発言していること(7月か8月であるとわかれば日付だけから誕生日が特定できること)と矛盾します。よって、バーナードが教られた日付は14日ではありません。
【3】さらに、もしシェリルの誕生日が8月だとすると、14日でないことがわかっても、8月15日か8月17日のいずれに特定することはできません。これはアルバートが「それならわかった」と言っているのと矛盾します。よって、シェリルの誕生日は7月です。
以上より、シェリルの誕生日は7月16日であることがわかります。
大人が数学を学び直す際には、文科省の指導要領には組み込まれていない「検定外数学」もお勧めです。
【統計】
ビジネスパーソンにとって、もっとも仕事に直結する数学が統計であることは間違いありません。実際、2015年以降に高校を卒業するいわゆる「脱ゆとり世代」は数Iの中の必須単元として統計の基礎を学んでいます。また、2022年以降に実施予定の指導要領(案)の中では、統計に関する内容がさらに倍増します。
《参考》
【ゲーム理論】
ゲーム理論とは、「複数のプレイヤーが選択するそれぞれの戦略が、当事者や当事者の環境にどのように影響するかを分析する理論」のことを言います。平たく言えば、2人以上のプレイヤーが利害関係にあるとき、どのような結果が生じるかを示し、どのように意思決定するべきかを教えてくれる理論のことです。「プレイヤー」は「国家」である場合も、企業や組織である場合も、個人である場合もあります。
【フェルミ推定】
フェルミ推定というのは、簡単に言ってしまえば、「だいたいの値」を見積もる手法のことです。フェルミ推定の名前の由来となったノーベル賞物理学者のエンリコ・フェルミは「だいたいの値」を見積もる達人でした。初期の原爆実験の最中、衝撃波が通り過ぎる際、小さな紙切れを数枚落とし、爆風に舞う紙切れの軌道から爆風の強さを概算で弾き出したこともあったとか。そんなフェルミがシカゴ大学で行った講義の中で学生に出した「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか?」という問題は大変有名です。
東京都下水道局によると、平成27年度末で東京都内のマンホールの数は484,058個(約50万個)。
フェルミ推定における各推定量は当然誤差を含みます。その誤差が積み重なって、(仮説は正しいのに)最終的な結果が大きく違ってしまうという可能性も否定はできません。でも、ふつう誤差の分は上にずれたり下にずれたりするのでいくつかの推定量を掛けたり割ったりしているうちに互いの誤差は相殺されてしまい、推定した値は真の値に近くなることが多いです。
凡百の科学者なら「もし結果が仮説に反していたら、君は何かを失敗したことになる」と決めてかかってしまいそうですが、「何かを発見したことになる」と言うところが、やはり超一流なのだろうと感じます。
「トイ・ストーリー」、「モンスターズ・インク」、「ファイティング・ニモ」といったヒット作を連発している映像制作会社ピクサーをあのスティーブ・ジョブズと共に設立し、現在は同社とディズニー・アニメーションの社長を兼務するエド・キャットムル氏の著書『ピクサー流 創造するちから 』という本の中から私の好きな一節を紹介しました。
この言葉は、独創的なアイディア(ヒラメキ)はある日突然完成形で浮かぶものではないということを教えてくれます。
ゲーテも、同じようなことを言っています。
ニュートンにしろ、ゲーテにしろ、モーツァルトにしろ、類稀な天才であったことは確かですが、どんな人間も生まれ落ちたその瞬間から、世の中や歴史から何らかの影響を受け続けます。歴史に名を残す天才たちはそれらの中から必要なものを驚くべき純度と深さで吸収したからこそ、その上に新しいものを作り上げることができたのでしょう
例えば、モーツァルトは5歳から作曲をしましたが、モーツァルトは3歳になる前からお父さんによる音楽の英才教育を受けていました。あり得ないほどの驚異的なスピードで学んだことは確かですが、知識が0の状態から曲を作り上げたわけではありません。それに、モーツァルトは同時代の他の作曲家の曲をとてもよく知っていて、彼らの作風を真似て即興的に作曲することができました。中でもハイドンを特に尊敬しよく研究していたことは有名です。
ありとあらゆる独創はそれまでに積み上げられてきたものを知るところから始まる、と言えるのではないでしょうか?そして、それらを組み合わせたり、抽象化したりすることによって、他人からは「独創的」と捉えられるアイディアが生まれるのでしょう。これについては、スティーブ・ジョブズも次のように言っています。
数学が苦手な方からすると、数学が得意な人は特別なヒラメキのある人だと思われがちですが、そんなことはないと私は思っています。数学が得意な人は、多くの数学の問題に触れるうちに、いろいろな問題に共通するアプローチの方法を身に着けていて、それらを組み合わせて問題を解いているに過ぎません。そのためにも、まずは多くの解き方を知ることは重要です。
拙書『大人のための数学勉強法 』に書いた「どんな問題も解ける10のアプローチ」を紹介しました。これらは高校数学の数I、数A、数II、数B、数IIIに登場する約700もの典型的な解法に共通する根本的な考え方をまとめたものであり、「数学ができる人はどのように問題を解いているのか」ということをできるだけ明文化したものです。
これらのアプローチを使えば、見たことがないような新傾向の問題を前にしても、解法を自ら作れるようになります。
《参考》
謝辞
Tスポットさんには貴重な機会を頂き、改めて感謝申し上げます。
生き馬の目を抜くIT業界にあって、着実に成果を上げている同級生の仕事ぶりにはとても刺激を受けました。私もがんばります!
講演のご依頼をお受けします。お気軽にお問い合わせください。